アンゼルム・キーファーの代表的な芸術作品を紹介|日本での過去の展覧会の情報も紹介

2023/03/07 ブログ

アンゼルム・キーファーの代表的な芸術作品を紹介|日本での過去の展覧会の情報も紹介

アンゼルム・キーファー_Faith, Hope, love

アンゼルム・キーファー(Anselm Kiefer)は、戦後ドイツを代表する新表現主義の作家です。絵画、写真、インスタレーションなど幅広い作品を手がけており、見るものを圧倒するような壮大な世界観を持つ作品が国際的にも高く評価されています。

 

今回は、タブーに果敢に挑戦し、人間とは何かをダイレクトに問いかけるようなセンセーショナルな作品を生み出すことで知られるアンゼルム・キーファーについて、その世界観や代表作品を紹介します。

 

 

 

アンゼルム・キーファーの略歴

 

まずはアンゼルム・キーファー自身の歩みに触れ、彼の世界観がどのようにして構築されていったのかを追ってみましょう。

 

 

 

1945年:ドイツ・ドナウエッシンゲンにて生まれ大学で法律を学ぶ

 

1945年、アンゼルム・キーファーは美術教師の息子として、ドイツのドナウエッシンゲンという町に生まれました。ドイツ南西部のバーデン・ビュルテンベルク州にあるドナウエッシンゲンは、シュヴァルツヴァルト(黒い森とも呼ばれる。グリム童話の舞台にもなっている針葉樹林)の中にある自然豊かな町で、ドナウ川の始まりの地としても有名です。

 

毎年行われる「ドナウエッシンゲン音楽祭」の舞台としても知られる文化の香り高いドナウエッシンゲンですが、アンゼルム・キーファーが生まれた第二次世界大戦が終わる間際には、爆撃の影響で荒廃を極めていました。戦後の混乱期に幼少期を過ごしたアンゼルム・キーファーは、やがてフライブルク大学で法律を学ぶようになります。

 

 

 

1966年:カールスルーエ芸術アカデミーで絵画を学び、デュッセルドルフ芸術アカデミーではヨーゼフ・ボイスに師事する

 

出典元:ウィキメディア・コモンズ (Wikimedia Commons)

 

アンゼルム・キーファーは法律を学び始めて間もなく、美術の世界を志すようになります。1966年、アンゼルム・キーファーは、バーデン・ビュルテンベルク州の州都カールスルーエにあるカールスルーエ芸術アカデミーで水彩画や写真作品の制作について学びました。そして1969年にはガレリー・アム・カイザープラッツにおいて初めての個展を開催します。

 

1970年からはデュッセルドルフ芸術アカデミーでヨーゼフ・ボイスに師事し学びを深めました。ヨーゼフ・ボイスはドイツの有名な現代美術家で、絵画や彫刻のほかパフォーマンスアートの分野で広く知られています。この頃のアンゼルム・キーファーは、ヨーゼフ・ボイスのほか画家のゲオルグ・バゼリッツからも影響を受けて作品を制作しています。

 

 

 

1960年代末:ナチスを主題とした作品制作に取り組み始める

 

1960年代末、アンゼルム・キーファーはナチスを扱った作品の制作を開始します。1969年にはフランス、イタリア、スイスなどヨーロッパの各地でナチス式の敬礼をしている自身の姿を撮影し、「占拠」というシリーズ作品として発表することで大いに注目されました。

 

また、1975年には「あしか作戦」というナチスのイギリス侵略計画を主題とする写真作品を発表します。これらのナチスを扱った作品は大変な議論を巻き起こし、人々に戦争と平和について深く考えさせました。

 

1977年にはドクメンタ6やパリ近代美術館で開催された第10回パリ・ビエンナーレ展にも積極的に参加し、活躍の幅を広げます。

 

 

 

1980年代以降:藁や鉛といった素材の物質性を生かした作品制作に注力するようになる

 

アンゼルム・キーファーは1980年にヴェネツィア・ビエンナーレに参加し、西ドイツ館で個展「燃焼、殴打、埋没、砂の沈積」を開催します。この頃ナチスを扱った作品制作に終止符を打ったアンゼルム・キーファーは神話、伝説、宗教など普遍的な主題を扱うようになります。それと並行して、藁をキャンバスに付着させたシリーズ作品や鉛をアート素材として用いた作品を制作し始めました。

 

1987年末から翌年にかけて開催された全米巡回展ではシカゴ美術館、フィラデルフィア美術館、ロサンゼルス現代美術館、ニューヨーク近代美術館などの名だたる美術館を巡回し、大成功をおさめます。さらに、1990年にはウルフ美術賞を受賞します。

 

1992年、アンゼルム・キーファーはドイツを離れ、アトリエをフランス南部のランドック地方バルジャックに移しました。

 

 

 

1993年:日本、京都国立近代美術館などにおいて大規模回顧展「アンゼルム・キーファー展 メランコリア―知の翼」を開催

 

京都国立近代美術館

出典元:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

 

1993(平成5)年にかけて、アンゼルム・キーファーの大規模回顧展「アンゼルム・キーファー展 メランコリア―知の翼」が日本で開催され、多くのファンが足を運びました。

 

セゾン美術館、東京国立近代美術館、京都国立近代美物館、広島市現代美術館を巡回したこの展覧会では、絵画作品に加えてアンゼルム・キーファーが画業初期に制作した水彩画や本、近年制作した大型彫刻作品や、初めてのインスタレーション作品『革命の女たち(1992年)』などがあわせて約70点展示され、大いに話題になります。

 

また、アンゼルム・キーファーは1999年に高松宮殿下記念世界文化賞の絵画部門を受賞しました。高松宮殿下記念世界文化賞は絵画、彫刻、建築、音楽、演劇・映像の5つの分野で世界的に活躍する芸術家に、毎年授与される賞です。

 

 

 

2008年:ドイツ出版協会平和賞を受賞

 

2005年から2007年にかけて回顧展「Anselm Kiefer: Heaven and Earth」が北米を巡回しました。その翌年、アンゼルム・キーファーはドイツ出版協会平和賞を受賞します。また、この頃住まいを南仏のバルジャックからパリに移しました。

 

その後もイギリスやフランスなどでアンゼルム・キーファーの回顧展が大々的に開催されています。70歳を超えた現在も精力的に創作活動を行っているアンゼルム・キーファーから、まだまだ目が離せません。

 

*Eschaton-Fondation Anselm Kiefer / Biographie

*高松宮殿下記念世界文化賞 / 1999年 第11回 絵画部門 / アンゼルム・キーファー

 

 

 

アンゼルム・キーファーの作品の世界観

 

Faith, Hope, love(1984-1986)

出典元:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

 

アンゼルム・キーファーは当時のドイツでタブーであったナチスにかかわる問題に鋭く切り込み、ドイツ国内に議論を巻き起こした作家です。その画業の前半においては、「占拠(1969年)」「あしか作戦(1975年)」といった写真作品や、「知られざる画家に(1980年)」といった絵画作品などに代表される、ナチズムの問題を取り上げた作品を多く制作しました。

 

その後は神話、伝説、旧約聖書などにも目を向け、「原罪(人間が生まれつき持っている罪深さ)」に迫る普遍的なテーマを手がけています。絵具のほかに砂、草、藁、鉛などのさまざまな素材を使って制作されるその壮大な作品は見る者を圧倒せずにはおかない大きな力を持っています。

 

1970年代末から1980年代にかけて隆盛を誇った「新表現主義」の代表的な作家であるアンゼルム・キーファーは、絵画や写真以外にも彫刻やインスタレーションなどを幅広く制作しました。ヴェネツィア・ビエンナーレやドクメンタといった国際美術展覧会にも多く参加しており、世界的にも高く評価される作家のひとりといえるでしょう。

 

 

 

アンゼルム・キーファーの代表作品を解説

 

70歳を超えても精力的に創作活動に打ち込んでいるアンゼルム・キーファーは、現在進行形で名作を生み出し続けています。そんなアンゼルム・キーファーの作品のなかでも、現在特に高く評価されている代表作品を3点紹介します。

 

 

 

マルガレーテ

 

『マルガレーテ(Margarethe)』はアンゼルム・キーファーが1981年に制作した作品で、サンフランシスコ近代美術館に所蔵されています。290.2cm×400.69cmの大型キャンバスに油彩や藁などを使って描かれており、グレーで塗られた背景に黄色い藁が浮き出るように配置されているのが印象的です。画面中央よりやや上に、黒い文字でマルガレーテと描かれているのがわかるでしょう。

 

「マルガレーテ」はドイツ語圏における代表的な女性の名前のひとつです。アンゼルム・キーファーはほかにも『君の金色の髪 マルガレーテ』という作品も制作しており、パウル・ツェランの詩からインスピレーションを得て描かれたといわれています。

 

*San Francisco Museum of Modern Art / Anselm Kiefer / Margarethe, 1981

 

 

 

オシリスとイシス

 

『オシリスとイシス(Osiris und Isis)』は、古代エジプト神話をモチーフとして1985年から1987年にかけて制作された作品です。サイズは『マルガレーテ』よりもひとまわり大きい379.73cm×561.34cm×24.13cmで、ピラミッドのような巨大な建造物が暗い色調で描かれています。こちらもサンフランシスコ近代美術館に所蔵されています。

 

「オシリス」と「イシス」はともに古代エジプト神話に登場する神様です。王位を継いだオシリスがそれを妬んだ弟のセトにより殺害され、その後オシリスとイシスの息子である「ホルス」がセトを倒しオシリスの跡を継ぐ、という物語はエジプト神話の中でもひときわ有名なエピソードです。

 

*San Francisco Museum of Modern Art / Anselm Kiefer / Osiris und Isis (Osiris and Isis), 1985-1987

 

 

 

The Land of the Two Rivers (Zweistromland)

 

1995年に制作された絵画作品『The Land of the Two Rivers (Zweistromland)』は、ニューヨークにあるグッゲンハイム美術館の分館である、ビルバオ・グッゲンハイム美術館(スペイン)に所蔵されています。

 

アンゼルム・キーファーはこの作品を制作する前に、同じタイトルの彫刻作品を1986年から1988年にかけて制作しました。そちらは鉛製の本がおさめられた本棚の形をとっています。

 

タイトルにある「Zweistromland」がドイツ語でメソポタミア文明を意味していることから、「Two Rivers」はチグリス川とユーフラテス川を指していることがわかります。青や緑の色味を基調として描かれた416cm×710cmの大型作品です。

 

*THE SOLOMON R. GUGGENHEIM FOUNDATION / Collection Online / Anselm Kiefer / The Land of the Two Rivers (Zweistromland)

 

 

 

アンゼルム・キーファーの作品は豊田市美術館にて鑑賞可能

 

出典元:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

 

アンゼルム・キーファーが1990年に制作した『飛べ!フキコガネ』と1987年に制作した『重い水』が、愛知県にある豊田市美術館で鑑賞できます。

 

『飛べ!フキコガネ』は330cm×560cmの絵画作品で、『重い水』は70cm×50cm×50cmの彫刻作品です。『重い水』はチェルノブイリ原発事故が発生した翌年に制作された作品で、原子炉の中で用いられる減速材(核分裂の際に中性子の動きを遅くして次の核分裂が起きやすくする)を意味しています。

 

豊田市美術館は、19世紀後半から現代までの美術品をコレクションしている1995年に開館した美術館です。建築家の谷口吉生とランドスケープ・アーキテクトのピーター・ウォーカーが設計した建築と庭園も見どころといえるでしょう。興味のある方はぜひ足を運んでみてください。

 

豊田市美術館の公式HPはこちら

 

 

 

アンゼルム・キーファーに関する豆知識(トリビア)

 

最後にアンゼルム・キーファーについての豆知識を二つ紹介いたします。

 

 

 

日本でも数回の展覧会・個展を開催している

 

アンゼルム・キーファーは日本でも何度か展覧会を開催しています。日本で行われた初めての個展はフジテレビギャラリーで行われた1992(平成4)年の個展でした。その翌年には大規模回顧展「アンゼルム・キーファー展 メランコリア―知の翼」が、上述の通り日本各地を巡回します。また、1998(平成10)年には神奈川県の箱根・彫刻の森美術館で「アンゼルム・キーファー」展が開催されました。

 

 

 

星空や星座をメインとした作品も多く制作

 

アンゼルム・キーファーは宇宙にも強い思い入れを持っていました。特に1990年代半ば以降に制作した作品には、その思いが見て取れるでしょう。アンゼルム・キーファーは星空や星座を扱った作品を多く制作していますが、なかでも1995年に描かれた『星空』という作品は有名です。この作品は大阪市の国立国際美術館に所蔵されています。

 

ほかにはキャンバスいっぱいに星座を描いた『アンドロメダ』という作品も知られています。また、ルネサンス期に活躍したイギリスの医師で天文学者でもあった、ロバート・フラッド(Robert Fludd)に捧げた『Für Robert Fludd』という作品もあります。

 

 

 

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