サイ・トゥオンブリーの作品の落札価格などを紹介|「子どもの落書きのようだ」といわれるエネルギッシュな作風についても解説

2022/09/28 ブログ

サイ・トゥオンブリーの作品の落札価格などを紹介|「子どもの落書きのようだ」といわれるエネルギッシュな作風についても解説

サイ・トゥオンブリー_Dutch Interior

 

サイ・トゥオンブリー(Cy Twombly)は、20世紀半ばから21世紀にかけてアメリカで活躍したアーティストです。「孤高の詩人」とも呼ばれるサイ・トゥオンブリーは、神話や文学作品にもとづくロマンチックな絵画を多く残しました。子どもの落書きのような生命力あふれる独特の作風が人気を呼び、最近では彼の作品のポスターを家に飾る人も増えているようです。

 

今回は、ニューヨーク近代美術館やメトロポリタン美術館などに作品がコレクションされ、ルーブル美術館の天井画も描いたサイ・トゥオンブリ-の、作品の魅力や世界観などに迫ります。

参考サイト:サイ・トゥオンブリー財団

 

 

サイ・トゥオンブリーの略歴

 

出典元:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

 

まずは、サイ・トゥオンブリーの略歴を簡単に紹介します。

 

 

 

1928年:アメリカ、ヴァージニア州のレキシントンに生まれる

 

1928年、サイ・トゥオンブリーはアメリカ南部のヴァージニア州にあるレキシントンに生まれました。本名はエドウィン・パーカー・トゥオンブリー(Edwin Parker Twombly)といいます。しかし彼は、プロ野球選手として活躍した同名の父親のニックネームを受け継いで、幼いころからサイ・トゥオンブリーと名乗りました。

 

レキシントン高校を卒業すると、ドイツ表現主義の美術が盛んなボストン美術館付属美術学校へ1947年の秋に入学しました。その後、バージニア美術館からの奨学金を得てニューヨークのArt Students League(美術学生連盟)で学びを深めます。

 

Art Students Leagueでは、のちにネオダダの代表的な作家として活躍するロバート・ラウシェンバーグに出会い、ともに学びました。

 

 

 

1951年:初の個展を開催、以降本格的にアーティスト活動を行う

 

1951年、サイ・トゥオンブリーは、同年ロバート・ラウシェンバーグのすすめでノースカロライナ州の芸術学校ブラック・マウンテン・カレッジの短期講習に参加しました。ブラック・マウンテン・カレッジでは、社会派リアリズムの画家ベン・シャーンや抽象表現主義の画家ロバート・マザウェルに師事します。

 

同年の秋、サイ・トゥオンブリーはシカゴのセブン・ステアーズ・ギャラリーで初の個展を開催しました。続いて年末にはニューヨークのサミュエル・クーツ・ギャラリーでブロディ・ガンディとの二人展を開催します。

 

本格的にアーティスト活動を開始したサイ・トゥオンブリーですが、1953年の半ばから1954年の半ばまでは、アメリカ陸軍に徴兵され暗号制作者として働きました。週末にはホテルを借りて真っ暗な部屋でドローイングに挑戦し、この経験はのちの落書きのような作風に影響を与えたといわれます。

 

 

 

1957年:ローマに魅了され、イタリアを拠点として活動開始

 

サイ・トゥオンブリーは1952年にイタリアのローマに訪れ、古代文明に魅了されました。そして1957年にイタリアへ移住し、それからは主にローマを拠点として活動します。イタリアでは神話・歴史・文学作品などからインスピレーションを得た絵画を制作し、1958年にはガレリア・ラ・タルタルガにてローマでの初個展を開催しました。

 

また、1960年代に入ると、サイ・トゥオンブリーはニューヨークにも拠点を持ち、ニューヨークとイタリアを行ったり来たりしながら制作に励むようになります。

 

1960年代末からはアメリカのさまざまな美術館で積極的に個展を開催します。1976年にはフランスのパリ市立近代美術館においても回顧展が開催されました。

 

 

 

1979年:ニューヨークのホイットニー美術館で回顧展を開催

 

1979年、ニューヨークのホイットニー美術館においてサイ・トゥオンブリーの大規模回顧展「Paintings and Drawings 1954-1977」が開催されました。このときに発行された、カタログレゾネ(総目録)の序文をフランスの有名な批評家ロラン・バルトが書き、大いに話題になります。

 

これをきっかけにサイ・トゥオンブリーは国内外で名声を高め、1980年代に入るとアメリカのみならずフランスやドイツでも立て続けに個展が開催される運びとなりました。

 

1994年にはサイ・トゥオンブリーの大規模回顧展「A Retrospective」がニューヨーク近代美術館(MoMA)をスタートして、テキサス州ヒューストンにあるメニルコレクション美術館、ロサンゼルス近代美術館、ドイツのベルリンにある新国立美術館を巡回しました。

 

さらに、1995年にはメニルコレクション美術館に彼の作品を常設展示する「サイ・トゥオンブリー・ギャラリー」が開館します。このギャラリーは、イタリアを代表する建築家レンゾ・ピアノにより設計されました。

 

また、サイ・トゥオンブリーは1985年にはフランス政府より芸術文化勲章「シュヴァリエ」を受章、1996年には高松宮殿下記念世界文化賞を受賞しました。

 

 

 

2001年:第49回ヴェネツィア・ビエンナーレで金獅子賞受賞

 

2001年、サイ・トゥオンブリーは第49回ヴェネツィア・ビエンナーレに連作絵画「Lepanto」を出品し、金獅子賞を受賞しました。さらに、2003年の個展「Fifty Years of Works on Paper」や2012年の個展「Sculptures」はアメリカ・ロシア・ドイツ・フランス・イギリスなど世界中の主要な美術館で開催され、多くのファンを喜ばせます。

 

2010年にフランスのルーブル美術館の天井画を制作し、レジオンドヌールシュバリエ勲章を受章したサイ・トゥオンブリーは、翌年の7月に83歳でこの世を去りました。

 

 

 

サイ・トゥオンブリーの作品の世界観

 

Dutch Interior(1962年)

出典元:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

 

サイ・トゥオンブリーは、ネオダダの代表的な作家として活躍したロバート・ラウシェンバーグやジャスパー・ジョンズと同じく、戦後アメリカの抽象表現主義から距離を置いて独自の世界観を発展させたアーティストです。

 

『THE ITALIANS(イタリア人たち)』や『Dutch Interior(オランダのインテリア)』に代表されるような、灰色や黄褐色などの無地の背景に、落書きをするように文字や記号を描いた作品が特に有名です。また、植物をモチーフとした色鮮やかな作品も人気を集めています。

 

サイ・トゥオンブリーは神話や歴史、文学作品に造詣が深く、そこからインスピレーションを得た作品を多く制作しました。特にギリシャ・ローマ神話やステファン・マラルメの詩は、彼に大きな影響を与えます。彼の作品にはロマンチックな世界観があらわれていることから、サイ・トゥオンブリーは「孤高の詩人」と呼ばれることもあります。

 

サイ・トゥオンブリーは、ドイツの彫刻家アンセルム・キーファーやイタリアの現代美術家フランチェスコ・クレメンテにも影響を与えたといわれており、数は少ないですが彫刻も手がけました。

 

サイ・トゥオンブリーの画集『The Essential Cy Twombly』Thames&Hudson(2014年)では、彼の絵画や彫刻などを160点のカラー図版を用いて紹介しているので、興味のある方におすすめです。

 

 

 

サイ・トゥオンブリーの代表作品を解説

 

続いて、サイ・トゥオンブリーの代表作品を四つ紹介します。

 

 

 

THE ITALIANS(イタリア人たち)

 

サイ・トゥオンブリーは『THE ITALIANS(イタリア人たち)』を1961年にローマで制作しました。199.5cm×259.6 cmのキャンバスいっぱいに赤や黒の線が自由に動き回っている様子は、まさに落書きのように見えます。

 

画面上部の少し左寄りには「THE ITALIANS」の文字、右上にはサイ・トゥオンブリーのサインと「ROMA」という文字が見えるでしょう。しかし、それ以外の線は何かをあらわしているわけではなく、線そのものの戯れを無邪気に表現したもののように感じられます。『THE ITALIANS』は、ニューヨーク近代美術館(MoMA)が所蔵しています。

参考サイト:ニューヨーク近代美術館

 

Fifty Days at Iliam(イリアムでの50日間)

 

Fifty Days at Iliam (1978)  

フィラデルフィア美術館の常設展示の一部

出典元:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

 

『Fifty Days at Iliam』は、サイ・トゥオンブリーによる10部構成の作品です。1977年から制作を開始し、1978年に完成しました。この作品は古代ギリシャの長編叙事詩『イリアス』にもとづいて制作されています。作品のタイトルに入っている「イリアム」とは『イリアス』の中で語られるトロイア戦争の舞台「トロイア」の別名です。

 

10枚のキャンバスはそれぞれ「アキレスの盾」「アカイア人の英雄」「アキレスの復讐」「戦闘中のアカイア人」「その前にすべてを焼き尽くす火」「アキレス、パトロクロス、へクターの色合い」「プリアモスの家」「戦闘中のイリア人」「永遠の夜の色合い」「イリア人の英雄」というタイトルで、物語が展開するように描かれています。現在フィラデルフィア美術館に所蔵されています。

参考サイト:フィラデルフィア美術館

 

Lepanto

 

『Lepanto』はサイ・トゥオンブリーが2001年に制作した12部構成の作品です。この作品は1571年に行われた「レパントの海戦」をテーマに描かれました。レパントの海戦とは、オスマン帝国とホーリー・リーグ(ローマ教皇の連合艦隊)の間で行われた有名な大海戦です。レパントの海戦ではギリシャのコリント湾内にあるレパント(現在のナウパクトス)において、オスマン帝国に対してヨーロッパが初勝利をおさめました。

 

『Lepanto』を構成する12枚の絵画のうち、1枚目、4枚目、8枚目、12枚目は、船隊を上から見下ろしたような構図になっています。その間の3枚は戦闘の様子をあらわしています。 サイ・トゥオンブリーはオスマン帝国とホーリー・リーグのどちら側にもつかず、時間や場所を超えた「紛争」の象徴としてこの作品を描きました。

 

2001年にヴェネツィア・ビエンナーレで金獅子賞を受賞したこの作品は、現在ドイツのブランドホルスト美術館に常設展示されています。

 

参考サイト:ブランドホルスト美術館

 

ルーブル美術館の天井画

 

ルーブル美術館のブロンズの間に2010年に描かれた天井画

出典元:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

 

サイ・トゥオンブリーは亡くなる前年の2010年、フランスのルーブル美術館のブロンズの間において天井画を描きました。空を連想させるような青く明るい天井には、古代ギリシャの彫刻家の名前が書かれ、さまざまな色の円がそのまわりを彩っています。

 

 

 

サイ・トゥオンブリーの作品はDIC川村記念美術館にて鑑賞可能

 

出典元:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

 

サイ・トゥオンブリーの作品は日本でも鑑賞可能です。千葉県佐倉市にある「DIC川村記念美術館」にはサイ・トゥオンブリーの作品のみを贅沢に展示した「トゥオンブリー・ルーム」があります。

 

トゥオンブリー・ルームには、サイ・トゥオンブリーが1968年に制作した絵画作品『無題』と、ブロンズの彫刻作品が展示されています。サイ・トゥオンブリーの彫刻作品は数が少ないため、絵画と彫刻を同時に生で観られるのは貴重な体験となるでしょう。

 

DIC川村記念美術館には、サイ・トゥオンブリーより少し前の時代に同じくアメリカで活躍したマーク・ロスコの作品を展示する「ロスコ・ルーム」もあり、こちらも人気です。トゥオンブリー・ルームもロスコ・ルームも常設展示スペースなので、いつ行っても作品鑑賞を楽しめます。近くにお住まいの方は、お気軽に足を運んでみてください。

 

DIC川村記念美術館の公式HPはこちら

 

 

 

サイ・トゥオンブリーの作品の落札価格とその価値について

 

近年行われたオークションにおいて、高額で落札されたサイ・トゥオンブリーの作品を2点紹介します。

 

 

 

2015年:Untitled(無題)|約87億円

 

2015年、サザビーズのオークションでサイ・トゥオンブリーの作品『Untitled(無題)』が7,053万ドル(約87億円)で落札されました。この作品は、サイ・トゥオンブリーが1968年に制作した作品で「Blackboard(黒板)」シリーズのうちの一つです。

 

それまでのサイ・トゥオンブリーの最高落札価格は6,960万ドルでしたが、それを上回る落札価格で話題になりました。

 

 

 

2017年:レダと白鳥|約58億7,000万円

 

2017年、クリスティーズのオークションで、サイ・トゥオンブリーが1962年に制作した作品『レダと白鳥』が5,290万ドル(約58億7,000万円)で落札されました。 『レダと白鳥』は、ゼウスのスパルタ王妃レダへの恋を描いた、ギリシャ神話にもとづく作品です。

 

サイ・トゥオンブリーにとって神話は主要なテーマの一つでしたが、なかでも「レダと白鳥」の話には大いに心惹かれたようです。サイ・トゥオンブリーは1960年から1963年までの間に「レダと白鳥」をテーマにした作品を6回も制作しています。

 

 

 

サイ・トゥオンブリーの作品の買取相場

 

 

サイ・トゥオンブリーの作品は国内で市場に出まわる機会が少ないのですが、当社では積極的に取り扱っています。保存状態などにもよりますが、版画作品でも数十万円程度での提案が可能です。過去には50万円での買取実績があります。お気軽にご相談ください。

 

 

 

サイ・トゥオンブリーに関する豆知識(トリビア)

 

最後に、サイ・トゥオンブリーにまつわる驚きのできごとを1つ紹介しましょう。

 

 

 

トゥオンブリーの作品が巻き込まれた「パイドロス事件」とは

 

2007年、フランスのアヴィニョンでサイ・トゥオンブリーの個展が開かれたとき、リンディ・サムという人が作品『パイドロス』に無断で口づけをして、逮捕されるという事件が起きました。

 

『パイドロス』の白いキャンバスを自らの赤い口紅で汚したリンディ・サムは、同年に行われた裁判で有罪判決を受け、所有者およびギャラリーに1,500ユーロとアーティスト自身に1ユーロを支払うように命じられました。

 

 

 

サイ・トゥオンブリーの作品は強化買取中

 

サイ・トゥオンブリーの作品について、売却を検討している方がいらっしゃいましたら当社にご相談ください。丁寧に鑑定させていただきます。

 

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