ミニマリズムの特徴をわかりやすく解説|ミニマル・アートの代表的なアーティストや時代背景を紹介
ミニマリズムの特徴をわかりやすく解説|ミニマル・アートの代表的なアーティストや時代背景を紹介
生活スタイルのひとつとして、ミニマリストという言葉をよく耳にしたこともある方も多いと思います。
ミニマリストとは、ミニマリズムを信奉する人達を指すイメージがあります。実はアートの世界にも、ミニマリズムというカテゴリーが存在するのです。
芸術だけではなく、文学やファッションでも使用されることが多いミニマリズムとは、どんな概念を持っているのでしょうか。
ミニマル・アートとも呼ばれる美術に、ミニマリズムはどのように反映されているのか。
ミニマリズムやミニマル・アートについて、詳しく説明いたします。
ミニマリズム(ミニマル・アート)とは?特徴を解説
画像:flickr photo by U.S. Embassy and Consulates in Canada
ミニマリズムという言葉は、美術や音楽、そしてファッションにおいてもよく使用される言葉です。
ミニマリストという言葉が闊歩する近年は、ミニマリズムに対してのイメージもしやすいかもしれません。
まずは、ミニマリズムの考え方についてみていきましょう。
美術・音楽・デザインの分野にて無駄なものを排除し本質的なものを表現しようとする活動・考え方
ミニマリズム(ミニマル・アート)とは、芸術や音楽、デザインや文学において、余分な装飾を省き、最小限の表現で最大の効果を得ようとする考え方です。
1960年代に盛んになった、カルチャーの動向のひとつです。
音楽で例えると、少ない楽器編成で一定のパターンを繰り返し、脈動的な効果を得ることがミニマリズムです。
文学の世界ならば、感情は抑えつつ淡々と生活のワンシーンを表現する作品を指します。
ファッションはどうでしょうか。
ミニマリズムのファッションは、素材や仕立てにこだわりつつも、シンプルで飾りが少ないデザインとなります。
いずれの場合においても、無駄なものは排除して、本質的なものを表現するという考え方が、ミニマリズムなのです。
美術分野においては「ミニマル・アート」として色彩や形状を最小限まで削ぎ落とすことが重視される
それでは、美術の分野におけるミニマリズム、つまりミニマル・アートとはどのようなものを指すのでしょうか。
ミニマル・アートは、アメリカにおいてさまざまなスタイルの芸術が交錯した1960年代に盛んになりました。1950年代のドラスティックなアートへの反動として、ミニマル・アートが誕生したのです。
またその源流は、1960年代のプライマリー・ストラクチャーにあるといわれています。円筒や立方体を使ったシンプルなプライマリー・ストラクチャーが後に、ミニマル・アートへと発展していきました。
ミニマル・アートも、基本的な概念は音楽やファッションと変わりません。
しかし美術におけるミニマリズムは、芸術家が自己批判を追及したり、非人称的外観にこだわるなどの特徴があります。
シンプリシティを極めた「最小限の芸術」であることが、ミニマル・アートの真髄なのです。
のちの「コンセプチュアル・アート」や日本の「もの派」などに影響を与えた芸術活動
ミニマル・アートは、その後にやってくるアートの動向にも影響を与えました。
1970年代に盛んになったコンセプチュアル・アートは、ミニマル・アートの影響を色濃く受けたアートのひとつです。
「コンセプト・アート」「概念芸術」とも呼ばれるコンセプチュアル・アートは、考え方や思想に重きを置いて作られる点が、ミニマル・アートとよく似ています。
「芸術とはなにか」を追求していく姿勢は、1960年代に生まれたミニマル・アートをはじめとするさまざまな芸術の理論を踏まえ、記号や地図、映像や文字なども駆使して作られています。
パフォーマンスを重要視する点は、アメリカ生まれの抽象表現芸術の流れも汲んでいるといえるでしょう。
また、日本の前衛美術である「もの派」も、ミニマル・アートの世界的な趨勢の中で誕生したアートです。
1960年代から1970年代にかけて日本のもの派は活躍し、石や布、土などの素材に手をかけず、物の本質の表現をテーマとしていました。
もの派がその評価を定着させたのは、1970年に旧東京美術館で開催された「人間と物質展」であったといわれています。
もの派は、戦後日本における代表的な美術の動向であると同時に、ミニマル・アートの日本版として、美術史に名を残しています。
ミニマリズム(ミニマル・アート)の時代背景
画像:Adobe Stock
ミニマリズム、またはミニマル・アートと呼ばれるこの動きは、どのような時代を背景に誕生したのでしょうか。20世紀に入り多様化が加速したアメリカ美術において、ミニマリズムはどのような位置づけにあるのか見ていきましょう。
1960年代:アメリカにてポップアート・抽象表現への批判的な動きとして広がり始める
18世紀から始まるアメリカの歴史の中で美術に焦点を当ててみましょう。
肖像画や風景画、自然主義が主流であったアメリカの美術は、20世紀に入ると急速に多様化します。
多様化した中で誕生したメイド・イン・USAの美術が、抽象表現主義でした。
ジャクソン・ポロックを祖とする抽象表現主義は、1960年代に入ると内包していた矛盾によって衰退していきます。
抽象表現主義に代わって隆盛を迎えたのが、ポップアートでした。ポップアートは一見すると抽象表現とは一線を画しているようですが、実際には抽象表現主義を新たな次元で実践したものとされています。
抽象表現やその延長線上にあったポップアートを否定する形で誕生し、のちのコンセプチュアルアートへとつなげたのが、ミニマリズム(ミニマル・アート)です。
1960年代の美術界は、まさに群雄割拠の時代でした。その中でミニマルアートは、人間と物との関係を根源まで突き詰めていく姿勢によって人気を博したのです。
当然のことながら古典的なヨーロッパ美術の手法や構図は拒否され、フランク・ステラやドナルド・ジャックによって、極端に抽象化された作品が生み出されました。
現在:美術史における画期的な分岐点となったのち、多くの表現や作家に影響を与えている
ミニマリズムははっきりと定義することが難しく、それゆえに使用される素材も表現としての造形も、多面性を持っているといえるかもしれません。
1960年代以降のアート界は、ミニマリズムをはじめとする多様な美術が拮抗し、アートの概念も多極化します。
1970年代のアメリカは建国200年を迎えたこともあり、アメリカではよりアイデンティティを意識した芸術が花開いていくことになります。
ミニマリズムは、主流派とは一致しないスピリットをも含む新たな美術の形として、美術史における画期的な分岐点となったのです。
世界の代表的なミニマリズム(ミニマル・アート)のアーティストと作品を紹介
画像:flickr photo by Fire_Eyes
ミニマリズムはアメリカにとどまらず、日本をはじめとする世界中の美術に影響を与えました。
世界の美術に影響を及ぼしたアーティストをご紹介いたします。
多様性も特徴のひとつであるミニマリズムの芸術家たちは、どんな特徴を持っているのでしょうか。
コンスタンティン・ブランクーシ
ミニマリズムの黎明を告げた彫刻家、それがコンスタンティン・ブランクーシです。
ブランクーシは1876年にルーマニアに生まれ、1904年からパリに移ります。ロダンに憧れたブランクーシはロダン自身に激賞されたものの、次第にロダンの写実的な手法を離れ、造形の単純化を目指しました。
1908年頃からミニマリズムの概念に近い作品を生み出していたブランクーシは、他のアーティストと異なり、素材を多様化することはしませんでした。ブランクーシがこだわり続けたのは木と石とブロンズの3点であり、それによって生み出される静謐さと深い精神性はアメリカでも高く評価されたのです。
とくに台座の放棄と造形のシンプルさは、それまでの彫刻の概念を覆す力を持っていたと評価されています。
ブランクーシの代表作には、戦没兵士のために作られた《無限柱》(1937)、《空間の鳥》(1923-36)などがあります。
ドナルド・ジャッド
ミニマル・アートの代表的な彫刻家といえば、ドナルド・ジャッドの名前は外せません。
ドナルド・ジャッドは1928年生まれ、アメリカのミズーリ州出身です。
アート・スチューデンツ・リーグで美術を学び、コロンビア大学で哲学を納めたジャッドは、キャリアの早くから立体作品を作ることを得手としていました。
1960年代半ばから、その作風はミニマル・アートの傾向が強くなります。
金属や工業素材を使った箱を垂直に並べるなど、箱型の作品が多いのがジャッドの特徴です。
幾何学的な形態を極限にまで単純化したジャッドは、のちにテキサス州に移住、作品を永久保存する場所を確保するなど、美術館の在り方にも影響を与えた芸術家のひとりです。
家具のデザインも手掛け、話題になりました。
ジャッドの代表作には、1967年に製作された《無題(積み重ね)》などがあります。
フランク・ステラ
無機的でありながら有機的なものを感じさせるのが、フランク・ステラの作品です。
フランク・ステラは1936年、マサチューセッツ州に生まれました。
フィリップス・アカデミー卒業後、プリンストン大学で歴史学を学び、1950年代末に《黒の絵画》を発表しました。抽象表現主義のオールオーバーというスタイルを守りながら、その画風はミニマル・アートの先駆と評されています。
1960年代半ばからはメタリックな色彩を使いながら変形キャンバスを多用したり、無彩色絵画を制作するなど、画期的な試みが目立ちます。
1980年代に入ると、レリーフの構築物やコンピュータを使った複雑な立体作品を生み出し、常にアートの世界を牽引してきました。
ステラの作品は自己破壊的といわれながら、歴史学を学んだ彼にふさわしい空間構造が存在しています。それが公共空間のプロジェクトにも招聘された、ステラの実力の証かもしれません。
ステラの代表作には、《 旗ヲ高ク掲ゲヨ!(ブラック・ペインティング)》(1959)、《不整多角形》連作(1956-67)、《エキゾチック・バード》連作(1976-80)などがあげられます。
カール・アンドレ
ミニマリズムの彫刻家としてだけではなく、詩人としてもよく知られているのがカール・アンドレです。
カール・アンドレはアメリカのマサチューセッツ州出身、フランク・ステラと同じように名門のフィリップス・アカデミーを卒業しています。
若い頃には映像作家と交流したり、欧州に遊学するなどさまざまな経験を積み、1958年からフランク・ステラとアトリエを共有するようになりました。
《黒の絵画》の連作で一躍時の人となったステラとは対照的に、アンドレはなかなか注目されず、ミニマル・アートの芸術家としては芽が出るのが最も遅かったといわれてています。
詩を書いたり操車場で働くなどする中で製作を続けたアンドレが注目され始めるのは、1965年頃からでした。
ミニマル・アートの芸術家として理解されるのが遅かった理由には、アンドレの作風のつつましさにあるといわれています。アンドレの作品には、ドナルド・ジャッドやフランク・ステラの作品にみられるような明快さがなく、代わりに「生」や「歴史」を感じさせる品格が備わっています。
角材やレンガ、鉄板などを使用したアンドレの作品は、美術館の一隅でひっそりと佇む静けさが特徴といえるでしょう。
カール・アンドレの代表作には、《レヴァー》(1966)、《144枚のアルミニウムの正方形》(1967)などがあります。
日本の代表的なミニマリズム(ミニマル・アート)のアーティストと作品を紹介
シンプルながら決然とした存在感を感じることが多いミニマル・アートですが、日本にもミニマリズムのすぐれた作品を生み出す芸術家が存在します。
日本の空気の中でミニマル・アートはどのように表現されるのか、代表的なアーティストをご紹介いたします。
桑山忠明
日本のミニマル・アートの代表的なアーティストといえば、桑山忠明の名があがります。
桑山忠明は1932年、愛知県の名古屋に生まれました。
東京芸術大学卒業後、1958年後半に拠点をニューヨークに移した桑山忠明は、1961年に個展を開催し脚光を浴びました。
その後は、ドナルド・ジャッドやフランク・ステラと並ぶミニマリズムの作家として名を馳せてきました。
キャリアの初期には和の素材を使用した作品が多かった桑山忠明ですが、やがて作風はメタリックで人工的なものへと移行していきます。
金属の人工性を超越した桑山忠明の作品は、日本らしい端正な美が特徴です。
桑山忠明本人は、ミニマル・アートの芸術家であることを否定しているものの、極められたシンプルなフォルムは、まさに世界に誇ることができる美しさを有しています。
桑山忠明の代表作には、《無題》(1960)、《無題》(1971)があります。
李禹煥
李禹煥(リー・ウーファン)は、韓国に生まれ日本で活動するアーティストです。
ソウル大学を中退した後、日本大学哲学科で学び卒業した李禹煥は、1962年に初の個展を開催しました。文筆家としての才もあり、1969年に発表した論文『事物から存在へ』は、美術出版社評論公募に選ばれています。
当初から国際的な美術での活躍が多く、サンパウロのビエンナーレや旧西ドイツで開催されたドクメンタ6などに出品し、1978年にはヘンリー・ムーア大賞展で優秀賞を受賞しました。
日本における「もの派」の中心的なアーティストとして、平面および立体における表現の可能性に挑戦し続けたことが、李禹煥の作品から伺うことができます。感性だけではなく、理論にも裏付けられたアートとして、高く評価されているのです。
「李禹煥 余白の芸術」展が毎日芸術賞を受賞するなど、受賞歴も多数あります。
代表作として《関係項》連作などが有名です。
ミニマル・アートとポップ・アートの違い
アメリカ生まれのアートといえば、色鮮やかなポップ・アートをイメージする方も多いと思います。
ミニマル・アートとポップ・アートにはどんな違いがあるのでしょうか。
その違いをまとめてみました。
ミニマルアートの特徴
ミニマルアートが台頭したのは、1960年代半ばです。
1950年代に盛んになった、激情的なアートへの反動で生まれたのがミニマル・アートです。
ミニマル・アートは、抽象表現主義と呼ばれる芸術の中でも、カラーフィールド・ペインティングの流れを汲んでいます。
幾何学的な立体感を持つ作品が、ミニマルアートの主流とされています。
ポップ・アートの特徴
最もアメリカらしさを感じるポップアートですが、その源流はイギリスにあります。
1952年、ロンドンにおいて芸術と大衆文化をテーマにした議論が起こり、ポップ・アートという言葉が生まれました。
これに対してアメリカでは、1950年代に日常的なアイテムや国旗などを絵画化し、量産したものがポップ・アートと呼ばれるようになりました。
ハリウッドのスターやミッキーマウスが描かれたポップ・アートは、アメリカン・カルチャーの象徴として世界中で人気を博しました。
ミニマリズム(ミニマル・アート)の歴史や代表作家まとめ
ミニマリズム(ミニマル・アート)とは、1960年代前半から1970年代初頭にかけて、主にアメリカで盛んになり世界に伝播していった芸術の動向です。
大きな色面や幾何学などのパターンの繰り返しを使用した造形が、ミニマリズムの特徴とされています。
アクション・ペインティングやポップ・アートなど、ドラマチックなアートの動向とは一線を画すミニマル・アートは、ジャッドやステラ、そして桑山忠明などの高名なアーティストを輩出してきました。
極められたシンプルな造形から、皆さんはなにを感じとられるでしょうか。