元永定正とは?日本を代表する抽象画家・絵本作家の代表作品や落札価格を解説

2022/05/19 ブログ

元永定正とは?日本を代表する抽象画家・絵本作家の代表作品や落札価格を解説

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元永定正は、「もけら もけら」「カニ ツンツン」といった絵本を残したアーティストとして有名です。デフォルメされたフォルムや色彩は多くの人々を魅了してきました。また、彼の抽象的な作品は、抽象画という難解なジャンルを親しみやすいものに変えました。

 

ユーモアと人間らしい優しさに溢れた彼の作品は、近年国外からも注目を集めていて、2015年のサザビーズ主催のオークションにて1億円で落札されました。また、絵本作家でなく、マンガ家、写真家、彫刻家としても活動していました。

 

 

 

元永定正の略歴

 

元永定正は、1922年三重県出身の現代画家であり、絵本作家です。前衛的なイラストで知られ、国内外で高い評価を得ています。谷川俊太郎といった詩人とともに絵本「もこもこもこ」(1975年)を作るなど、数多くの作品を遺しました。

 

 

1946年:師事する濱邊萬吉と同じ郵便局への就職をきっかけに本格的な油彩画を開始

 

元永定正は、地元の高等学校を卒業したのち、1938年に大阪にある機械工具店に就職しました。当初はマンガ家を目指していましたが、1940年に大阪にあった中之島洋画研究所で洋画を学ぶようになります。その後、1946年より郵便局に転職して洋画家の濱邊萬吉に師事し、本格的に油彩画に転向しました。

 

それと同じ時期に、彼は数多くのコンテストに参加し入選するほか、マンガ家として連載を受け持つなど、活動の幅を広げていきました。

 

複業が定着しつつある現代ですが、1つの仕事に従事するといった価値観が根強い戦後まもない時期に、定職を持ちながらアーティストとしても活動する彼のスタイルはさぞ珍しかったはずです。

 

 

1955年:田中敦子白髪一雄らと同じく関西が拠点の前衛美術グループ「具体美術協会」に参加

 

元永定正はその後、神戸に移住しますが、そこでも転職を繰り返しながらアーティスト活動を続けます。初めのうちは絵画制作に取り組んでいましたが、しだいに彫刻や写真など、絵画以外のジャンルの制作も手がけるようになりました。

 

そのようななか、1955年に芦屋市が開催した「真夏の太陽にいどむ野外モダンアート実験展」に参加したことで、彼は具体美術協会の誘いを受け、入会しました。彼は同協会で絵本制作に注力しながら、主要メンバーとして活動します。このことをきっかけにアメリカやイタリア、東京のアーティストや評論家との関わりが生まれ、後の彼の作風にも影響を与えました。

 

しかし、彼が1970年に開催された大阪万国博覧会に参加した際、具体美術協会に違和感を覚えたことで、翌年1971年には協会を脱会しました。

 

 

1964年以降:現代日本美術展や日本芸術大賞を受賞し抽象画家として地位を確立

 

元永定正は、1964年に第6回現代日本美術展にて優秀賞を受賞しました。以降、抽象画家としての地位を確立し、1966年には渡米します。アメリカで谷川俊太郎と知り合い、後の共作「もこもこもこ」にも繋がりました。

 

これまでは日本画の技法「たらし込み」からヒントを得た作品制作を中心に行っていましたが、この渡米をきっかけにフォルムの追求が始まり、新たなスタイルを確立します。フォルムの追求が、以後の絵本作家としての活動に大きな影響を与えました。

 

また、それと同時期に海外への展覧会への出展が続きました。国内での評価だけでなく、彼の海外での認知度も高まっていきました。

 

 

1970年:絵本制作活動を開始し各地で絵本原画展も数多く開催

 

具体美術協会脱退後、元永定正は絵本作家として活動を始めました。代表作としては、詩人の谷川俊一郎との共作「もこもこもこ」(1975年)、「がちゃがちゃがちゃ どんどん」(1990年)、ジャズピアニストの山下洋輔との共作「もけら もけら」(1990年)が挙げられます。また、1973年には自身初の絵本「ポアン・ポアンけのくもたち」を刊行しました。

 

なお、絵本原画展も数多く開催され、2022年には生誕100周年を記念して兵庫県立美術館で「生誕100年 元永定正展 -伊賀上野から神戸、そしてニューヨークへ-」展が開催されています。

 

 

 

元永定正の作品の世界観

 

元永定正の作品の世界観は、彼の直感がおもむくままに制作されたものが多く、ユーモラスです。「僕は知性派じゃなく、アホ派です」といった発言を残すことからもうかがえるように、コミカルで遊び心や人間味のある世界観、そして観る者を優しく包み込んでくれます。

 

また、斬新な素材を用いた作品を制作するなど、エネルギーがほとばしる作品も見どころです。彼の作品の特徴には「独特なフォルム」があり、生命の源を思い出させてくれるかのようです。

 

戦後間もない高度経済成長期やバブル期を中心に活動した元永ですが、画一化した価値観のもと逼塞(ひっそく)した思いを抱いていた人も少なからずいたはずです。彼のピュアな作風は、その時代のフラストレーションを吹き飛ばすものとなったことでしょう。

 

 

 

元永定正の代表作品を解説

 

ここでは、元永定正の代表作品「もけら もけら」、「ゆめ・きずな」、「きいろとぶるう」を解説します。「もけら もけら」は絵本ですが、他の2作品はオブジェです。絵本作家としてのみならず、街のアートにも携わった彼の才能がうかがえます。

 

 

もけら もけら

 

「もけら もけら」は、元永定正が1990年にジャズピアニストの山下洋輔とともに制作した絵本です。彼は絵を、山下氏は文を担当しました。山下氏の選ぶ詩的な言葉とともに描かれた、元永のシュールで遊び心のある絵は、今にもまるで踊り出すかのようにリズミカルで、絵本と言うよりはアートブックに近いです。子供のみならず大人も楽しめる絵本となっています。

 

また、「もけら もけら」は第14回絵本にっぽん賞を受賞しました。デフォルメされた表紙が特徴的です。タイトルは知らなくても誰もが一度は目にしたことのある絵本ではないでしょうか。

 

 

ゆめ・きずな

 

「ゆめ・きずな」は、2001年に元永定正が妻の中辻悦子とともに制作したオブジェのひとつです。神戸市のHAT神戸・脇の浜 なぎさ公園にあるこのオブジェは、全長30mに及ぶ阪神淡路大震災復興モニュメントです。

 

公園は子供たちの想像力を培う場所です。そのような場所に、一見落書きのように見える彼のユーモアや人間味溢れる作品が並んでいるために、親子共々遊びを楽しめるはずです。街中に遊び心を垣間見ることができ、大人でもくつろげそうです。

 

 

きいろとぶるう

 

「きいろとぶるう」は、2011年に制作されたオブジェで、元永定正の晩年作です。オブジェの特徴は至ってシンプルで、水色と黄色の2本の棒が支えあっています。果たして、これが何を示しているのかは分かりません。

 

しかし、オフィス街に佇む「きいろとぶるう」は、ひときわ目立つものとなっています。その道を通る者にとっては、普段何気なく見るものだからこそ、そのときの気分や状況によってオブジェに抱く感覚が変わりそうです。

 

 

 

元永定正の作品の落札価格とその価値について

 

元永定正の作品は、2015年のサザビーズのオークションにて1mほどの絵画が1億円近くの価格で落札されました。彼の作品は様々な価格帯のものが多く、なかには10万円未満で購入できるものもあります。

 

とりわけ価値が高い作品は「具体」が中心に描かれているものです。2013年にMoMAとグッゲンハイム美術館にて「具体」をテーマにした展覧会が開催され、彼の作品は話題を呼びました。2015年のサザビーズにとどまらず、価値の高い作品となると数千万円単位で売買されているのが特徴となっています。

 

国外で注目されることが増えてきているため、今後セカンダリーマーケットでの市場価値も高まりそうです。売買する場合は、多くの人に知られている絵本作家としての彼の側面だけでなく、画家としてのキャリアに対する理解が必要となるはずです。

 

 

 

元永定正の作品の買取相場

 

元永定正はじめ、近年具体美術協会に属していたアーティストへの評価は高まりつつあります。主に​​吉原治良や白髪一雄といったアーティストは非常に高値で取引されています。というものの、具体美術協会に所属していたすべてのアーティストが高値で取引されているわけではなく、独自のスタイルを持って活躍していたアーティストの価値が高くなる傾向にあります。

 

そのなかでも、元永定正の作品は「たらし込み」やフォルムを意識したものが多く、さらに絵本作家としてのキャリアもあり、その独特スタイルによって注目を集めています。それゆえ、彼の評価は今後さらに高まっていくでしょう。そして、作品のサイズが大きくなるほど買取相場も高くなる傾向にあります。

 

 

 

元永定正に関する豆知識(トリビア)

 

ここでは、あまり知られていない元永定正についての豆知識を紹介します。絵本作家だけでなく彫刻や写真といったジャンルでも活躍していた彼だからこそ、多くの作品を残しています。彼の多才な側面を垣間見れそうです。

 

 

元永定正は版画制作にも取り組んでいた

 

元永定正は絵本作家としての活動だけでなく、版画制作にも取り組んでいました。シルクスクリーン作品はオークションでも頻繁に売買されていて、手頃な価格で購入できます。日本画の伝統技法「たらし込み」を用いる彼ゆえ、版画では微細な色彩のトーンがうかがえます。もともとマンガ家を目指していた彼ならではの、枠の中で表現するスタイルを味わえるはずです。

 

彼の版画は、シュールで人間味に溢れ、また鮮やかな色彩にエネルギーをもらえます。彼のエネルギッシュな姿勢に触れられることでしょう。

 

 

元永定正の画集はヤフオクやメルカリ等で購入可能

 

元永定正の画集は、現在ヤフオクやメルカリなどで購入できます。作品の購入に至らずとも、絵本で彼の作品を見たことがある方は多いはずです。彼独特のユーモラスな作風を味わいたいのであれば、画集を購入することをおすすめします。数多くの展覧会を開催したため、画集の値段は比較的手頃に購入できるものが多い傾向にあります。

※元永定正の作品について、ヤフオク・メルカリでの購入は贋作のリスクがあります。正規の鑑定を受けた販売店で購入ください。

 

 

元永定正の作品は強化買取中

 

活動当初はマンガ家として活動していた元永定正ですが、洋画家や絵本作家、写真家、彫刻家としてのキャリアを重ねていきます。また、アーティスト活動と並行して本職を持っていましたが、転職回数は20回を超えていたそうです。時代が決めた既存の枠に捉われない彼の生き方に魅了された人は数知れずいたことでしょう。作品から溢れるユーモアと人間らしさは、彼の生き様を物語るかのようです。

 

当店では現在元永定正作品の買取を強化しています。アート作品は価値の判断が難しいため、スタッフが念入りに査定いたします。

 

 

情報参考サイト

日本現代美術振興協会

モダンアート協会

MOMA

東京都現代美術館

文化庁

文部科学省

 

 

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田中敦子