フォトリアリズム(スーパーリアリズム)の特徴を解説|技法や日本の代表的な作家について紹介

2022/10/28 ブログ

フォトリアリズム(スーパーリアリズム)の特徴を解説|技法や日本の代表的な作家について紹介

フォトリアリズムには、いくつかの別称があります。

「スーパーリアリズム」「ハイパーリアリズム」などなど、フォトリアリズムの性格をそのまま示す名前が多いのが特徴です。

 

まさにその名の通り、写真のような写実性が身上のフォトリアリズムは嫌い。という人も少なくないかもしれません。また、写真と同じに見えるからつまらない、という意見の人も多いでしょう。

 

戦後のアートの動向のひとつとして、フォトリアリズムはそんな位置づけにあり、そのような役割を果たしたのでしょうか。

今日は、フォトリアリズムについてご説明いたします。

 

 

 

フォトリアリズム(スーパーリアリズム)とは?特徴を解説

 

フォトリアリズムとはどのようなアートを指すのでしょうか。
フォトリアリズム誕生の背景には、当時のさまざまな美術様式が関係しています。


まずはフォトリアリズムについて、概要をお伝えします。

 

 

ポップアートの影響を受けつつ抽象表現主義の対照的な動きとして起こった芸術運動

 

フォトリアリズムは、1970年代前後にニューヨークで興った芸術の動きです。

日常の中にありふれた風景や人物を、写真と見まごうばかりに克明に描いた作品を指します。しかし、写真にはない要素がフォトリアリズムにはいくつか存在します。

 

フォトリアリズムの興隆は、当時普及しつつあったカメラを否定するところから始まりました。簡素化されたミニマリズムへの挑戦と捉える批評家もいます。

戦後のアメリカでは1940年代後半から、無焦点で精神的内容に重点を置く抽象表現主義が誕生します。その精神主義に反目するように登場したのが、大衆性を重んじるポップアートでした。

 

写実主義を極めたフォトリアリズムは、理論的にはポップアートやミニマリズムと親和性があるといわれています。

いっぽうでフォトリアリズムのアーティストたちは、モダニズムとは一線を画したエドワード・ホッパーとは、距離を置いたといわれています。フォトリアリズム同様に写実を手法としたホッパーですが、作品には心理的な陰影が垣間見えます。

 

フォトリアリズムは、非情や虚構を表現する点が特徴です。【修正】
写実を手法としたポッパーの作品の背景には、独自の哲学が宿っていますが、ホッパーの心理的なニュアンスとは趣を異にしています。

 

 

写真や映像を用いて対象をよりリアルに描写する制作方法

 

写真と間違えそうになるほど、リアルに描かれたフォトリアリズムの作品は、どんな技法を用いて完成するのでしょうか。

フォトリアリズムの基本的な技法は、描く対象を直接形にしていくわけではありません。

 

実物そっくりに写した写真を細部にいたるまで写していくというのが、主な手法なのです。これによって、カメラが撮った写真とはまったく別の透徹したイメージが生まれるといわれています。

 

またフォトリアリズムの作品制作でよく使われた道具が、エアブラシでした。現在はフォトショップなどを使えば素人でもできる陰影やぼかしは、フォトリアリズムの画家たちがエアブラシを使用して普及させたものだったのです。

 

 

17世紀のオランダ絵画であるトロンプ・ルイユに影響を受けたとも言われる

 

「騙し絵」とも訳されるトランプ・ルイユは、陰影や色彩、遠近法を使って、そこにないものを実際に存在するかのように描くという、一種の写実主義です。

トランプ・ルイユは、古代ギリシアやローマにおいてよく用いられた様式ですが、バロック時代において、壁画などに奥行きを持たせる意味でのトロンプ・ルイユが盛んになりました。

 

さらに17世紀~18世紀のオランダ海外において、トランプ・ルイユは飛躍的な発展を遂げます。緻密な描写によって、触感や量感の表現も可能になったトロンプ・ルイユのテクニックは、コンセプトこそ違え、フォトリアリズムも影響を与えました。

 


 

フォトリアリズム(スーパーリアリズム)の誕生した背景や歴史

 

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画像:flickr photo by Thad Zajdowicz

 

抽象表現主義やミニマリズムと比較することで、美術に造詣が深くない人でもわかりやすいのが、フォトリアリズムです。しかし単純に見えるフォトリアリズムには、当時の複雑な社会が背景に存在します。

 

フォトリアリズム(スーパーリアリズム)が誕生した背景や歴史について、簡単に説明いたします。

 

 

1960年代:人々の不安な状況をよりリアルに絵で表現しようと、アメリカを中心に活動が開始された

 

1940年代にアメリカで生まれ、世界中のアートに影響を与えたのがポロックを代表する抽象表現主義です。抽象表現主義は、毀誉褒貶の中でまた別の美術の潮流を生むというという現象を繰り返しました。

 

フォトリアリズムもそのひとつで、1960年代以降、公民権運動や女性解放運動などの社会の大きな動きとともに、カルチャーの分野でもパターン化を否定する現象が生まれます。

社会的不安や新たな芸術の動向といった混沌とした時代の中で、シンプルにありのままの現実を描き出すフォトリアリズムが生まれたのです。

 

どこにでもある日常をストップモーションのように作品化することで、不安を客観視しようとした、ともいえるかもしれません。

 

 

1970年代〜1980年代:鑑賞者に錯覚を抱かせるトリックアートだと多くの批判や誤解を受ける

 

まず写真ありきで生まれたフォトリアリズムは、トリックアートと混同され、批判されたり揶揄されたりすることも少なくありません。

古代ギリシアの遺物にも残るトリックアートは「騙し絵」とか「目だまし描法」と呼ばれ、実際にはあり得ないものをテーマに描かれています。

 

この技法は中世において衰退するものの、現代アートの中ではシュルレアリスムの大家ダリなどが用いたため注目されていました。

フォトリアリズムは、鑑賞者の眼をくらませるトリックアート同様であるという批判が、1970年代以降よく聞かれるようになりました。しかし2つの芸術は、似て非なるものです。

 

フォトリアリズムは、日常的な一光景をあえて没個性的に描き、新しい視覚を鑑賞者に与える役割を持っています。

フォトリアリズムは20世紀を代表するアートとして、独自性を有しているといえるでしょう。

 

 

 

世界の代表的なフォトリアリズム(スーパーリアリズム)のアーティストと作品を紹介

 

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画像:flickr photo by Art is a word

 

写真とも比肩する細かな描写が特徴のフォトリアリズム、スーパーリアリズムとも呼ばれる様式を代表する芸術家は、どんな特徴を持っているのでしょうか。

世界的に知られるフォトリアリズムのアーティストをご紹介いたします。

 

 

チャック・クロース

 

フォトリアリズムを代表する画家といわれているのが、アメリカのワシントン出身であるチャック・クロースです。

1940年生まれのクロースは、ワシントン大学やイェール大学などの名門校で学業を修めたのち、1964年からはウィーン美術アカデミーでも学びました。

 

10代前半、抽象表現主義の祖といわれたポロックの作品に影響を受けたクロースは、当初抽象画家としてキャリアを開始しています。

しかし、1960年代半ばから抽象表現のスタイルを拒絶し始め、1970年頃から白黒による巨大な肖像画を手掛けるようになりました。

 

写真やエアブラシを用いて精緻に大画面を製作していくのがクロースの特徴で、絵画の新しい創造性を構築したと評価されています。やがて彩色作品も手掛けるようになったクロースですが、描く対象は自身をはじめ親しい友人が大半でした。

 

鉛筆や指を使用するなど作品によって技法は異なりますが、いずれも万華鏡のように幻想的な作品です。

1988年には病気によって体が麻痺するというアクシデントに見舞われましたが、2021年に亡くなるまで精力的な製作活動は衰えませんでした。

 

 

リチャード・エステス

 

1932年、アメリカイリノイ州に生まれたリチャード・エステスは、街角の光景を描き続けたスーパーリアリズムの画家です。

シカゴ美術研究所で学んだエステスは、イラストレーターや具象画家として活躍したのち、プロジェクターで撮影された写真を用いて精密な作品を描くようになります。

 

都会、街路、公国の看板など、ポップアートと共通するテーマを描きつつも、エステスの作品には冷徹な哲学が存在しており、ミニマムアートとの共通性を指摘されることもあります。

ガラスの窓、車のボディなど、光や反射の表現が巧みで、構築にも見るべきものが多いエステスの作品は、クールでありながら抒情性のある作風が特徴といえるでしょう。

 

代表作には《ダブル・セルフポートレート》(1976)などがあります。

 

 

マルコム・モーリー

 

1931年、ロンドンに生まれたマルコム・モーリーは、2018年に亡くなるまで、ニューヨークを拠点にアーティストとして活動をしていました。

若き日には海軍に入隊、戦争で心に傷を負ったモーリーは帰還後、キャンバーウェル・カレッジ・オブ・アーツ大学や王立美術院で学んでいます。

 

コンセプチュアルアートやポップアートにも縁があったモーリーですが、1960年代にはポップアートに対抗する革新性を持つフォトリアリズムの旗手として、その名を知られるようになりました。

1950年代から抽象表現、写実主義、新ロマン主義などの影響を受けて作風は変化し、海軍時代に目にした船をモチーフに代表作品を数多く残しています。

 

かつてダリに「君はファンタジックな目の持ち主だ。そこにありながら誰も見ていないものを描け」といわれたというモーリーは、その言葉を実践し続けたと言います。(※1)

作風は時代によって変化しても、明るい色彩は一貫して変わらないことがモーリーの特徴でした。

<引用元>

Il Manifesto「Malcolm Morley, l’artista che amava i transatlantici」

 

 

 

日本の代表的なフォトリアリズム(スーパーリアリズム)のアーティストと作品を紹介

 

フォトリアリズムやスーパーリアリズムというと、欧米の芸術家を真っ先に思い浮かべます。

しかし日本にも、フォトリアリズムの作品を残した芸術家が存在するのです。日本のフォトリアリズムを担った画家についてご紹介いたします。

 

上田薫

 

日本におけるフォトリアリズムの第一人者といわれているのが、1928年東京に生まれた上田薫です。卵の黄身の質感まで感じさせるリアルな作風が、上田の特徴です。

 

上田は薫は東京芸術大学卒業後、グラフィックデザイナーとして活躍し、1972年にスーパーリアリズムとして描いた作品が注目を浴びました。

物質の動きや流れを一瞬にとどめて作品にする上田の絵画には、デザイナーとしての構図の大胆さも垣間見え、世界各地で高く評価されてきました。

 

キャンバスにちりばめられた色彩、光の表現は、他の追随を許さない鮮烈さがあり、鑑賞者を引き込む力に満ちています。

世界中で個展が開催されているほか、1975年には日本美術展で東京国立近代美術館賞と安井賞、翌年には現代日本美術展で群馬県立近代美術館賞を受賞、フォトリアリズムの旗手としての地位を不動のものにしました。

 

屈託のない明るさや生命力を感じさせる上田の作品は、そこはかとないユーモアや面白みを有している点も、人気がある要因といえるでしょう。

代表作には《なま卵B》(1976)、《サラダE》(2014)などがあります。

 

 

 

17世紀を代表する画家のフェルメールもスーパーリアリズム的な作風とされる

 

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画像:wikimedia commons (Public domain)

 

スーパーリアリズムは、17世紀~18世紀にかけてのオランダ絵画の影響も受けていることは、既述しました。

なかでも、近年注目度が上昇している17世紀の画家ヤン・フェルメールの作風は、スーパーリアリズムとの共通点が指摘されます。

 

フェルメールの作品は、農民、町の喧騒、静謐な室内などをテーマにしたものが多く、スーパーリアリズムとよく似ています。

現在確認されているフェルメールの作品は、わずか40点弱ですが、いずれもスーパーリアリズムと同じような臨場感を感じる描き方が特徴的です。

 

また極めて自然で現実的な描写でありながら、鑑賞者を夢想的な世界に誘う力がある点も、フェルメールとスーパーリアリズムに共通する特色です。

描かれた場所の空気や物体の質感を、巧みな技法によって可能にしたフェルメールは、構成の芸術に大きな影響を与えたといわれていますが、1960年代に興隆したフォトリアリズム(スーパーリアリズムは)まさに、その流れをくむ美術の動向といえるのかもしれません。

 

 

 

日本初の写実絵画専門美術館「ホキ美術館」にてフォトリアリズムの作品を鑑賞可能

 

20世紀に生まれたフォトリアリズムですが、これに特化した美術館が日本には存在します。

2010年に千葉県に開館したホキ美術館が、その写実絵専門の美術館なのです。

 

写実という美術の様式は、目の前にある人や物を写すというだけではありません。それぞれの作品の中には、そこに見えないなにかを思わせる魅力が秘められています。

美術に興味がない人でも、写実絵画であればアートとの接触はそれほど難しいものではありません。

 

ホキ美術館のシンプルな空間に並ぶ写実絵画は、心豊かな時間を約束してくれることでしょう。

アートをモチーフにしたアイテムが購入できる売店も、楽しみのひとつです。

 

ホキ美術館概要

名称 ホキ美術館
開館時間

午前10時~午後5時30分
入館受付は閉館時間の30分前の午後5時までとなります

火曜日休館

料金 一般     :1830円
65歳以上   :1320円
高校生・大学生:1320円
中学生    :910円
小学生以下  :760円(保護者1人につき2人まで無料)
住所 〒267-0067 千葉県千葉市緑区あすみが丘東3-15
電話番号 043-205-1500
公式HP https://www.hoki-museum.jp/

 

 

 

フォトリアリズム(スーパーリアリズム)の歴史や代表作家まとめ

 

フォトリアリズム、あるいはスーパーリアリズムとも呼ばれる美術の様式は、1960年~1980年代にかけて興隆しました。

1940年代に始まったアメリカの抽象表現主義を否定し、ミニマリズムのスピリットを受け継ぎ、かつポップ・アートの大衆性に影響をうけた、リアルな作風を特徴としています。

 

整然と現実だけを写したように見えるフォトリアリズムですが、構図や色彩、光の表現の中には、豊かな抒情性や夢想性を秘めています。

トリックアートのひとつと揶揄されることもありますが、フォトリアリズムはユーモアこそあれ、あくまで真摯に物体や人間と向き合う姿勢が評価されています。

 

写実絵画専門の美術館があるほど人気のフォトリアリズム、独自の世界にぜひ触れてみてください。

 

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