ポストモダンアートの特徴とは?代表的なアーティストや芸術運動例を紹介

2022/10/28 ブログ

ポストモダンアートの特徴とは?代表的なアーティストや芸術運動例を紹介

ポストモダンという言葉は、アートの世界だけのものではありません。

文学や哲学の分野とも連動しながら、アートの動向のひとつとなったものがポストモダンアートです。

ポストモダンアートは、それ以前に存在したモダニズムを否定するところから出発しました。

 

20世紀のアートの動向として大きな存在であるポストモダンアートとは、どのような特徴があったのでしょうか。

代表的なアーティストも含めて、変遷をたどっていきましょう。

 

 

 

ポストモダンとは

 

ポストモダンとは、どんな意味を持っているのでしょうか。

ポストモダンとは、「近代のあと」という意味です。

 

「モダン」という概念は、20世紀初頭に生まれました。それまでの伝統主義を否定し、合理的な機能主義をコンセプトとしたものがモダニズムです。

モダニズムの合理主義的な傾向からの脱却を試みたのが、ポストモダンという動きでした。日本語では「脱近代主義」と訳されています。

 

ポストモダンという言葉は、1970年代に建築理論家チャールズ・ジェンクスが著した『ポスト・モダニズムの建築言語』から普及したといわれています。

西欧社会が規範とした既存の世界観から脱却し、多様性を受け入れることがポストモダンの根底にあります。

 

 

 

ポストモダンアートとは?特徴を解説

 

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画像:flickr photo by Julien Maury

 

 

建築から始まり、文学や哲学にも影響を与えたポストモダンですが、アートの世界ではどんな現象が起きたのでしょうか。

モダンアートの特徴と代表作を見てみましょう。

 

 

「近代美術」の後に登場した近代美術的側面を否定・発展して誕生した芸術運動

 

「ポスト」とはラテン語で「~のあと」という意味です。つまりポストモダンアートとは、「モダンアート(近代美術)のあと」を意味します。

 

ポストモダンアートは、それ以前のアートのあり方を否定することからはじまり、さまざまな形で発展をした経緯があります。

ポストモダンアートの代表としては、次のようなものがあげられます。

 

・アンディ・ウォーホル作《マリリン・モンロー》

・ジェフ・クーンズ作《バレリーナ象》

・オノ・ヨーコ《カットピース》

・キース・へリング《Ignorance=Fear. Silence=Death》

・ジャスパー・ジョーンズ《旗》

 

個々のアーティストの作風は多彩ですが、近代美術の概念を否定して、ポストモダンを念頭に作成されたことでは共通しています。

 

 

ポストモダンアートとモダンアートの違い

 

ポストモダンアートは、モダンアートを否定することで成り立っています。

それでは、2つのアートにはどのような違いがあるのでしょうか。

 

モダンアートの定義には、時代の設定などにおいて諸説があります。一般的に普及している概念を比較してみます。


 

モダンアート 20世紀に入ってから第2次世界大戦前までのアートの諸動向。キュービズム、ダダイズム、シュルレアリスム、抽象主義など。
ポストモダンアート 第2次世界大戦後、1970年代に興隆したアートの諸動向。コンセプチュアルアート、トランスアヴァングアルディア、デジタルアートなど。

 

ポストモダンアートの諸動向には、異質な要素や感性を重んじたり、偶然性に頼るといった要素が多いことが特徴です。

 

 

 

ポストモダンアートの代表的なアート運動例

 

ポストモダンアートと一口にいっても、表現方法はアーティストによって大きな相違があります。コンセプトを共有するアーティストたちは、いくつかのアートの動向に分けられ論じられています。

ポストモダンアートのなかでも特によく知られた代表的な運動について、特徴とともにご紹介いたします。

 

 

コンセプチュアルアート

 

コンセプチュアルアートは、概念芸術と訳されることもあります。

最盛期は1960年代半ばからの10年間でした。

 

当時の欧米で主流となったコンセプチュアルアートの特徴は、記号や文字、写真や映像、またパフォーマンスを表現の手段としたところにあります。

コンセプチュアルアートからはネオダダ、ポップアート、ミニマルアートなどの動向が生まれました。その源流にあったのは、1910年代のマルセル・デュシャンの《泉》であったとされ、概念の直接的な表現が特徴です。

 

コンセプチュアルアートの代表的な作家には、ジョセフ・コスース、ダニエル・ピュラン、松澤宥などがいます。

 

 

インスタレーションアート

 

インスタレーションアートは、平面や立体だけではなく、空間全体を作品として表現するものを指します。

1960年代後半に始まったインスタレーションアートは、1970年代半ばに定着し、さまざまなアーティストによって作品が生み出されました。

 

インスタレーションアートの最大の特徴は、鑑賞者があらゆる角度から作品を観察できる点にあります。

表現手段は多岐にわたり、絵画や彫刻だけではなく、音や光、機械などを使用して、芸術的空間が構成されます。スケールが大きいアートであるだけに、メッセージ性が強いところも特色のひとつです。

 

インスタレーションアートを手掛けたアーティストは数知れませんが、代表的な作家にはビデオアートのナム・ジュン・パイク、写真を手段とするクリスチャン・ボルタンスキー、町や橋の下を舞台にする川俣正 などがいます。

 

 

デジタルアート

 

21世紀に入って話題になることが多いのが、デジタルアートです。

デジタルアートは、1946年にコンピュータが開発されて以降、何人かのアーティストがコラージュなどを作成したことに端を発します。

 

1952年、数学者のベン・ラポスキ―がコンピュータで描いた《オシロン》がデジタルアートの祖となりました。

デジタルアートが本格的に始動するのは、1980年代に入ってからです。コンピュータが身近なアイテムとなり、デジタルアートを作成するためのアプリやツールが普及に拍車をかけました。

 

近年はNFTの技術が開発され、デジタルアートの価値が急上昇しています。2021年には《Everydays: The First 5000 Days》が75億円で落札され、ニュースになりました。(※1)

デジタルアートの著名作家には、上記の作品を生み出したマイク・ウィンケルマン、人気のNFTを世に送り出したマット・ホールとジョン・ワトキンソンのラルバラボなどが知られています。

 

 

新表現主義(ニューペインティング)

 

1970年代後半から1980年代にかけて台頭したアートが、新表現主義(ニューペインティング)です。

新表現主義は、造形要素を削いだコンセプチュアルアートのスタイルと相反する特徴を持っています。荒々しい筆遣い、壮大な物語性など、力強さを感じられることが、新表現主義の特徴です。

 

20世紀初頭のドイツで生まれた表現主義になぞらえて、新表現主義と呼ばれています。

新表現主義には歴史や神話、寓意をテーマにしながら、それらを作品の中で自由に遊ばせるという作品が目立ちます。この点が、ポストモダンアートの意識と合致しているといわれているのです。

 

新表現主義の代表的な作家には、フランチェスコ・クレメンテやゲオルク・パゼリッツ、ジュリアン・シュナーベルなどがいます。

それぞれのアーティストの作風は非常に個性的で、各国ごとの特徴もあるため、国によって呼び名が変わることもあります。

 

 

 

世界の代表的なポストモダンアートのアーティストと作品を紹介

 

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画像:Adobe Stock

 

ポストモダンアートは、非常に幅が広いアートの動向を内包しています。

活躍するアーティストも膨大な数に及びますが、その中から代表的な作家をご紹介いたします。

 

 

アンディ・ウォーホル

 

ポップアートの第一人者として最も有名な作家が、アンディ・ウォーホルです。

ウォーホルは1929年、アメリカのペンシルバニア州に生まれました。

 

カーネギー工科大学で絵画やデザインを学んだのち、ニューヨークを活動拠点に置きました。

1960年代前半からイラストレーターとして人気を博し、マリリン・モンローやコカ・コーラの瓶をテーマにした作品は、ポップアートの顔となっています。

 

一方で映像や抽象画も制作しており、大衆的なカルチャーの体現者にとどまらず、死や有名性をテーマにした作品も数多く残しました。

感情移入が少ない淡々とした彼の作風は、ポストモダンアートの新しい流れを作ったといっても過言ではないでしょう。

 

代表作には《金色のマリリン・モンロー》(1962)、《迷彩の自画像》(1986)などがあります。

 

 

ジェフ・クーンズ

 

身近にあるキャラクターをテーマにした作品で知られているのが、ジェフ・クーンズです。ジェフ・クーンズもまた、ポップアートの代表的作家とされています。

クーンズは1955年にアメリカのペンシルバニア州に生まれ、メリーランド美術大学で学びました。

 

1980年頃から作り始めた作品は、デュシャンの《泉》の影響を受けたものが多いといわれています。ポップアートの担い手にふさわしく、商品を題材にした作品が多数あります。

また幾何学をモチーフにしたネオジオの作品も得意としていました。特にクーンズの名を有名にしたのは、ウサギや犬などをテーマにした作品群で、これによって若い世代の人気も獲得しています。

 

中産階級や大衆の趣味をよく研究し、考察の末に生まれたクーンズの作品には、ポストモダンアートのスピリットが感じられます。

代表作には、《ウサギ》(1986)、《子犬》(1992)などがあります。

 

 

ジャスパー・ジョーンズ

 

国旗や地図をモチーフにして、印象的な二次元の作品を数多く残したのがジャスパー・ジョーンズです。

ジャスパー・ジョーンズは1930年、サウスカロライナに生まれました。

 

サウスカロライナ大学を卒業後ニューヨークに移住し、1950年代から国旗や数字、地図を題材にした作品を作り始めます。

1958年に初めての個展を開きますが、抽象主義が盛んであった当時は、ジョーンズの作品は卑俗として酷評に晒されました。

 

ジョーンズはその後も大衆文化的な要素を作品に投影することをやめず、1960年代半ば以降はポップアートの先駆者として認められるようになります。

ジョーンズの存在は、抽象表現主義から現実社会へとテーマを移行するアートの動向の中で、大きな役割を果たしました。

 

1970年代に入ると、ジョーンズはクロスハッチングの模様を使用するなど、抽象画の趣がある作品も制作しています。

代表作には《旗》(1954)、《エール缶》(1964)などがあります。

 

 

キース・ヘリング

 

日本でも知名度が高いポストモダンアートの作家の1人が、キース・へリングです。

原色を用いた鮮やかなへリングの作品は、一度見たら忘れられないインパクトがあります。

 

キース・へリングは1958年、アメリカのペンシルバニア州に生まれました。ピッツバーグ美術学校、ニューヨーク視覚芸術学校で学び、ニューヨークの地下鉄構内でドローイングを始めます。

単純明快でユーモラスな作風は大いに注目され、1982年には大規模な個展を開催しました。

 

ウォーホルやバスキアとも交流があり、へリングの名も国際的に知られるようになります。

1986年にはベルリンの壁に90mにおよぶ作品を描き、グラフィティアーティストとしてのアイデンティティにこだわり続けました。

 

また、自身の絵が入ったグッズを販売する「ポップショップ」をオープンし、商業活動にも熱心であったアーティストです。

代表作として《ニューヨーク地下鉄のチョーク・ドローイング》(1981-1986)が有名です。

 

 

デイヴィッド・ホックニー

 

イギリスにおけるポストモダンアートの代表的な作家が、デイヴィッド・ホックニーです。

ホックニーは1937年に生まれ、イギリスのブラッドフォード美術学校やロイヤル・カレッジ・オブ・アートで学びました。

 

在学中から、ホックニーの才能は突出していたといわれ、美術学校卒業直後に初の個展を開催しています。また1960年代には、国際的な賞も数多く受賞しました。

アメリカの西海岸に移住した後に発表した作品群は、明るい色彩となめらかな質感で若い世代の人気を得ました。カリフォルニアの日常生活を思わせるそれらの作品は、ポップアートの範疇にあるといわれています。

 

また舞台芸術を手掛けたり、グラフィックアート、フォトモンタージュでも才能を見せ、ポストモダンアートを多彩に表現しました。

代表作には《A bigger splash》(1967)、《Nichol's crayon》(1980)などがあります。

 

 

ロイ・リキテンスタイン

 

アンディ・ウォーホルと並んでポップアートの代表的な作家とされているのが、ロイ・リキテンスタインです。アメリカの大衆的な漫画を主題に、視覚に強烈に訴える作品がリキテンスタインの強みです。

ロイ・リキテンスタインは1923年にニューヨークに生まれ、若い頃にはアート・スチューデンツ・リーグとオハイオ州立大学で学びました。

 

大学卒業後は、教鞭をとりながら若手のアーティストたちと交わり、漫画の絵画作品を発表したのは1962年のことでした。印刷の網目を利用した《バアーン:Whaam!》 (1963)などの作品が高い評価を得て、リキテンスタインはポップアートの顔となります。

 

またピカソやセザンヌの画風を基調にした作品や、抽象表現主義を独特の作風で描いた《ブラッシュストローク》の連作など、一般に普及したイメージ以外の作品も数多く残っています。

絵画だけではなく、エナメルを使用した彫刻作品でも優れた才能を見せました。

代表作には《絶望》(1963)、《溺れる少女》(1963)などがあります。

 

 

 

日本の代表的なポストモダンアートのアーティストと作品を紹介

 

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画像:flicker photo by Jyri Engestrom

 

ポストモダンアートは、日本のアートシーンにおいても欧米の影響を受けながら展開しました。

日本独自の動向もいくつか生まれ、海外で活躍した日本人アーティストも少なくありません。日本のポストモダンアートを牽引した作家をご紹介いたします。

 

 

斉藤陽子

 

1960年代に、ハプニングを表現として使用した美術の動向を「フルクサス」といいます。国際的な活動で知られたフルクサスを代表する日本人作家が、斉藤陽子です。

斉藤陽子は1929年に福井県で生まれ、日本女子大学で心理学を学びました。

 

フルクサスとは「流体の」「発展途上の」という意味がありますが、斉藤陽子も若いころから世界各地を回り、フルクサスを体現した作家です。

特に1960年代から1970年代にかけて、斉藤陽子はフルクサスと密接にかかわり合い、パフォーマンスやアートワークを行いました。

 

フルクサスは、美術が持つ高尚なイメージを揶揄することも多く、作家たちが日常的なものを箱に詰めて廉価で売るという作品群があります。斉藤陽子の場合は、チェスゲームの一連作品がその代表作といわれています。

現在はドイツのデュッセルドルフに住み、活動を続けています。

 

 

オノ・ヨーコ

 

日本人女性の中でも知名度が高いオノ・ヨーコは、亡きジョン・レノンの妻であり、若いころから数多くのパフォーマンスイベントを行った、一流のアーティストです。

1933年、東京に生まれたオノ・ヨーコは学習院大学で哲学を修め、アメリカのサラ・ローレンス・カレッジで芸術を学びました。

 

1960年から若手アーティストたちとともにパフォーマンスイベントを開始、フィルムやビデオも使ったコンセプチュアルアートの先駆者となりました。

1969年にジョン・レノンと結婚してからは、その知名度を利用してメッセージ性の強いパブリックアートを実践しています。メディアを媒体とした介入型アーティストの先駆けとして、のちの作家たちにも大きな影響を与えました。

 

ポストモダンアートの作家という立場を、国際的な平和運動の手段とするオノ・ヨーコの生き方は、さまざまな分野で再評価されています。

 

 

 

ポストモダンアートの歴史や代表作家まとめ

 

ポストモダンアートという言葉は、非常に広義に使用されています。

戦前まで主流であったモダンアートを否定し、多様性や偶然性を重視する表現方法が、ポストモダンアートの基底にあります。

 

一世を風靡したコンセプチュアルアートや、近年話題となっているデジタルアートまで、ポストモダンアートの表現方法は多彩です。ウォーホルやリキテンスタインのように、その作品が時代のシンボルとなり、人々の脳裏に刻まれた作品も数多く存在します。

20世紀から21世紀をつなぐポストモダンアートの愉しさを、ぜひ味わってみてください。

 

<引用元>

※1.美術手帖「75億円のNFT作品落札者は世界最大のNFTファンド創設者・Metakovan」

 

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