サム・フランシスとはどんな現代アート画家?|日本との関わりも深いアーティストの代表作品や買取価格について解説
サム・フランシスとはどんな現代アート画家?|日本との関わりも深いアーティストの代表作品や買取価格について解説
サム・フランシスは、戦後間もない時期に活躍したアメリカの現代アーティストです。抽象的、かつ日本美術の影響を受けた空間的な色使いが彼の作品の特徴といえます。彼の作品からは常に新しい色使いを追求する姿勢がうかがえます。
サムフランシスの略歴
サム・フランシスは、20世紀に活躍したアメリカの現代アーティストです。アンフォルメルといった抽象主義の流れをくんだ作風が彼の作品の特徴です。日本画にも精通していて、多くの日本の文化人とも交流がありました。
1923年:アメリカに生まれ、カリフォルニア大学で美術と美術史を修了する
サム・フランシスは、1923年にアメリカで生まれました。カリフォルニア大学バークレイ校に進学後、美術や美術史のみならず、植物学、医学、心理学も学びました。美術だけでなくさまざまな学問に精通した彼だからこそ、のちに当時のアメリカ人が注目していなかった日本画のスタイルをいち早く作風に取り入れられたのでしょう。彼の好奇心旺盛な姿勢は、学生時代からすでにあったようです。
また、多感な時期に世界恐慌や第二次世界大戦といった激動の時代を過ごしたことも、彼の作風のアンフォルメル(激しい抽象画)を確立するきっかけだったのかもしれません。
1957年:世界旅行中に初めて日本を訪れ「にじみ」の表現方法に影響を受ける
1957年に初めて日本を訪れたサム・フランシスは、日本美術の独特の手法「にじみ」に感銘を受けました。欧米諸国にはない、日本の自然や、「わび・さび」の哲学にも表れているような余白を活かした文化に魅了されたのでしょう。それ以降、彼にとって日本は愛してやまない存在となりました。
もとより抽象画をメインに作品を制作していたサム・フランシスですが、日本との出会いによってさらに彼の作風は独自性を極めていきました。
1962年: 第3回東京国際版画ビエンナーレ展で国立西洋美術館賞を受賞する
サム・フランシスは、1962年に第3回東京国際版画ビエンナーレにて国立西洋美術館賞を受賞しました。東京国際版画ビエンナーレとは、1957年から1979年にかけて東京国立近代美術館と京都国立近代美術館を会場に開催された大規模な国際版画展です。彼のほかにも、ジャスパー・ジョーンズ、ロバート・ラウシェンバーグといった有名画家が受賞作家として名を連ねました。
また、当時は版画ブームだったこともあり、このような大規模な版画展は東京だけでなく、旧ユーゴスラビアなど世界各国で開催されました。
1983年:代表作であるサンフランシスコ空港の壁画を完成させる
サム・フランシスは、1983年に彼の代表作のひとつのサンフランシスコ空港の壁画を完成させました。若き日の彼は、お金がなく白や黒の絵の具でしか絵を描くことができなかったようです。しかし、しだいに彼のアーティスト活動は脚光を浴びるようになり、キャリア後半では彼の故郷であるカリフォルニア州の施設にて大規模な作品を手がけました。
1994年にサム・フランシスは逝去しましたが、サンフランシスコ空港には彼の作品が遺っています。
サムフランシスの作品の世界観
サム・フランシスの作品の特徴は「白」が目立つ点です。赤や青、黄色と作品には様々な色が描かれていますが、白色の存在が際立っています。彼がキャンバスに書いたメモには「君は 永遠から来た あの白なのか」という言葉が残されています。その言葉からうかがえるように、40年近くにわたるアーティスト活動を通して彼が見出したかったことは、「キャンバスで白をどう位置付けるか」だったはずです。
また、サム・フランシスの作品では「青」も重要な要素です。1954年に制作された「コンポジション」より青の存在も目立つようになりました。青色の持つ浮遊感や流動性を捉えたスタイルは、のちに彼が日本美術の「にじみ」から影響を受けた際にも活かされたのでしょう。
色の特徴を駆使しながら、キャンバスを空間として捉えるサム・フランシスの作風は、1950〜60年代の欧米で主流だったポップアートとは一線を画しています。日本美術から大きな影響を受けたように、和洋折衷の独特な作風となっています。
サムフランシスの代表作品
ここでは、サム・フランシスの代表作品「脈」、「ビックレッド」、「無題」を紹介します。彼が日本美術から学んだ「にじみ」の手法や、白や青を基調とした色使いからも見てとれるように、和洋折衷の鮮やかな作風がうかがえます。
コンポジション・黒|1972年
サム・フランシスの「コンポジション・黒」(1972年)は、色鮮やかな彼の作品とは異なり、黒の絵の具のみを使ったものとなっています。しかし、一概に黒といってもキャンバスの中で微細にトーンが変わっていて、まるで水墨画のようです。欧米人である彼の日本に対するリスペクトがうかがえ、大変興味深いです。また、彼の作風のひとつである空間的な色使いとは真逆で、この作品では平面的な色使いがなされていて、実験的な作品といえます。
ビッグレッド|1953年
「ビッグレッド」は、1953年にサム・フランシスが制作した作品です。1956年にニューヨーク近代美術館で開催された「12人の芸術家」でこの作品が展示されたことによって、彼の名が国際的に知られるようになりました。
キャンバス一面を濃い赤色をはじめとした原色で覆い尽くす「ビッグレッド」は、白と青の印象が強いサム・フランシスのイメージとは異なります。彼自身、もとより色をふんだんに使った制作活動をしていますが、この作品ではプリミティブで本能的なタッチが非常に特徴的です。
無題|1985年
サム・フランシスの「無題(Untitled)」(1985年)からは、エネルギーのほとばしりを感じさせます。白地の背景のおかげか、ピンクや黒、紫といった妖艶な色彩が目立つ作品です。この作品からは、彼が影響を受けた日本美術の「にじみ」を垣間見られます。また、ダイナミックな構成とキャンバスに描かれた色の躍動感は、鑑賞する者を惹きつけ、生命の根源へと誘うかのようです。
なお、東京都現代美術館の第9展示室内の4面すべてがこの作品で囲まれています。展示室にて作品の存在感に圧倒されそうです。
サムフランシスの作品が見られる日本の美術館を紹介
ここでは、サム・フランシスの作品を鑑賞できる日本の美術館と、そこで鑑賞できる作品を紹介します。主な美術館は、滋賀県立近代美術館(滋賀県)、大原美術館(岡山県)、愛知県美術館(愛知県)です。それぞれ詳しく解説していきます。
滋賀県立近代美術館(滋賀)
滋賀県立近代美術館には、「サーキュラー・ブルー」「星の詩(うた)」の2作品が収蔵されています。
住所 | 滋賀県大津市瀬田南大萱町1740-1 |
アクセス | JR琵琶湖線 瀬田駅より路線バスにて「県立図書館・美術館前」または「文化ゾーン前」で下車 |
営業時間 | 9:30~17:00(入館は16:30まで) |
料金 |
一般:540円(団体は430円) 高校・大学生:320円(団体は260円) ※常設展の場合 |
公式HP | https://www.shigamuseum.jp/ |
大原美術館(岡山)
大原美術館には、「メキシコ」の1点が収蔵されています。
住所 | 岡山県倉敷市中央1-1-15 |
アクセス | JR山陽新幹線岡山駅(もしくは広島方面であれば新倉敷駅)よりJR山陽本線に乗り換え。倉敷駅で下車。美観地区内施設。 |
営業時間 | 9:00~17:00(最終入館 16:30) |
料金 |
一般:1,500円(団体は1,300円) 高校・大学生:500円(団体は300円) |
公式HP | https://www.ohara.or.jp/ |
愛知県美術館(愛知)
愛知県美術館には、「消失に向かう地点の青」の1点が収蔵されています。
住所 | 愛知県名古屋市東区東桜1-13-2 |
アクセス |
地下鉄東山線または名城線、名古屋鉄道瀬戸線「栄」駅より徒歩2~3分 愛知芸術文化センター10階・8階 |
営業時間 | 9:30~17:00(入館は16:30まで) |
料金 |
一般:500円(団体は400円) 高校・大学生:300円(団体は200円) ※コレクション展の場合 ※中学生以下は無料 |
公式HP | https://www-art.aac.pref.aichi.jp/ |
サム・フランシスの作品の買取価格と相場
サム・フランシスの作品は日本でも流通しているものの多くは版画となっています。値段は数万円から購入できるものから、100万円を超えるものまで様々あります。サイズの大きい作品が多いため、所有する際はある程度スペースが必要です。なお、制作から25年以上経過しているため、コンディションの管理が必須となります。買取希望の方は一度プロの鑑定士に確認することをおすすめします。
同時代の有名アーティストの作品よりも比較的安価で購入できるほか、欧米の表現形式に東洋のスタイルを組み合わせた彼の作風は唯一無二といえます。今後のアートマーケットでの彼に対する評価がどのように変化していくのかチェックしたいです。
サム・フランシスは日本と関わりが深く、現在でも出光美術館に多くの作品が所蔵されている
日本に魅了されたサム・フランシスは、作家の大江健三郎や、日本ペンクラブの元会長の大岡信、音楽家の武満徹など多くの日本の文化人と深い交流を持ちました。1988年から89年に開催されたサム・フランシス展の図録には「ヴィジョンをつたえる人」(大江健三郎)、「宇宙夢」(武満徹)などのテキストが収録されるなど、欧米の美術観を逸脱した彼の作風は日本人に親しみと新しさを与えたようです。
また、石油事業で名を残した実業家の出光佐三は、サム・フランシスの友人、かつパトロンでした。出光氏が開設した出光美術館には、現在も彼の作品の多くが所蔵されています。最終的には彼は出光氏の親族と結婚するなど、パトロンや友人を越えた関係となりました。
サム・フランシスの作品は強化買取中
ポップアートが主流の1950年代に、サム・フランシスのように日本美術から影響を受けた欧米のアーティストは貴重な存在です。当時のアートのムーブメントとは一線を画した彼の作品からは、面を重視した西洋のスタイルと、空間を重視した東洋のスタイルの両方を取り入れた独特の哲学がうかがえます。
当店では現在サム・フランシス作品の買取を強化しています。アート作品は価値の判断が難しいため、スタッフが念入りに査定いたします。
情報参考サイト
・MOMA
・文化庁