シェリー・レヴィ-ンとは?アプロプリエーションという手法や販売差し止めになったこともある話題の代表作品について解説
シェリー・レヴィ-ンとは?アプロプリエーションという手法や販売差し止めになったこともある話題の代表作品について解説
シェリー・レヴィーン(Sherrie Levine)は、ポスト・モダニズムの代表的なアーティストです。シェリー・レヴィーンはアプロプリエーションという手法を取り入れて従来与えられていた作家の役割に疑問を投げかけ、社会に揺さぶりをかけることに成功しました。
今回は、センセーショナルな方法で多くの作品を生み出し、現在もニューヨークで活動中のシェリー・レヴィーンについて紹介します。
シェリー・レヴィ-ンの略歴
まずはシェリー・レヴィーンの生い立ちやアーティスト活動について、簡単に押さえておきましょう。
1947年:アメリカのペンシルベニア州ヘイズルトンに生まれる
1947年、シェリー・レヴィ-ンはアメリカのペンシルベニア州東部のヘイズルトンに生まれ、ミズーリ州東部にあるセントルイスの外れで育ちました。
幼い頃には絵の好きな母親に連れられてセントルイス美術館を訪れたり、映画に連れて行ってもらったりしました。このような経験が彼女の制作に影響を与えたといわれています。
1973年:ウィスコンシン大学マディソン校でMFAを取得
1965年に高校を卒業したシェリー・レヴィーンは、ミズーリ州の北にあるウィスコンシン州に住まいを移し、ウィスコンシン大学マディソン校へ進学します。そしてそのまま大学院へと進み、そこでMFA(Master of Fine Arts)を取得しました。
MFAは日本では「美術学修士」と呼ばれており、アートにまつわる最高学位を指します。 在学中、初めは絵画に取り組んでいたシェリー・レヴィ-ンですが、次第に行き詰まりを感じ、写真に目を向けるようになります。
また、学びと並行して販売・宣伝などにかかわるコマーシャルアートの仕事やアート講師の仕事にも携わりました。
1975年:ニューヨークへ移り、本格的に創作活動を開始
1975年、シェリー・レヴィーンはニューヨークへ住まいを移しました。そして1977年の「2 Shoes for $2」展、翌年の「Dogs and Triangles」展などといった個展を次々と開催し、アーティスト活動に本腰を入れ始めます。
また、この頃からエリオット・ポーター(Eliot Porter)、ウォーカー・エヴァンス(Walker Evans)、エドワード・ウェストン(Edward Weston)などの有名な男性写真家の代表作品を再撮影する手法(アプロプリエーション)を独自に研究しています。
1981年:Metro Pictures Galleryで個展を開催し、代表作品『After Walker Evans』を発表
1981年、シェリー・レヴィーンはニューヨークのメトロ・ピクチャーズ・ギャラリー(Metro Pictures Gallery)で個展を開きました。この展覧会には、ウォーカー・エヴァンスの作品をアプロプリエーションした『After Walker Evans』という作品が出品されます。この個展をきっかけに、シェリー・レヴィーンは一躍有名になりました。
シェリー・レヴィーンは1980年代にはクロード・モネ(Claude Monet)、ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ(Vincent van Gogh)といった印象派の巨匠の作品や、ジョアン・ミロ(Joan Miró)、ピエト・モンドリアン(Piet Mondrian)といったモダニズムの巨匠の作品も手がけています。
2011年:ホイットニー美術館で回顧展「Mayhem」が開催される
2011年、ニューヨークのホイットニー美術館でシェリー・レヴィーンの30年の活動を振り返る大規模回顧展「Mayhem」が開催されました。「騒乱」という意味を持つこの展覧会には、シェリー・レヴィーンの代表作品『After Walker Evans』のほか、2010年に制作したばかりのクリスタル・スカル・シリーズなどが展示され、多くの人々が足を運びました。
2015年には、アメリカで最も有力な画廊ともいわれるデイヴィッド・ツヴィルナー(David Zwirner)に所属アーティストとして加わります。翌年にはデイヴィッド・ツヴィルナーでの初めての個展がニューヨークで開催されました。
シェリー・レヴィーンは、現在もニューヨークで創作活動を行っています。
*David Zwirner / Sherrie Levine
シェリー・レヴィ-ンの作品の世界観
既に世に出ている作品を「引用」の範囲を超えて自らの作品に取り込むことを「アプロプリエーション(Appropriation)」といいます。シェリー・レヴィーンは、「流用」「盗作」と訳されるこの手法を初めて取り入れたアーティストのうちの1人です。
アプロプリエーションはオマージュとよく似ていますが、この2つには大きな違いがあります。オマージュが引用元の作品に対する敬意や賛辞を表明するために用いられることが多いのに対して、アプロプリエーションは意図的に作品のおかれている文脈をずらすことで元の作品や作者に対する批判の表明や社会への問題提起のために用いられるのです。
シェリー・レヴィーンは、アプロプリエーションを行うことで現代社会において「オリジナル」とは何であるのかを社会に問いかけました。また、権威ある男性アーティストの作品を女性アーティストとしてアプロプリエーションすることで、男性優位の世界に待ったをかけたのです。
シェリー・レヴィーン作品のように、作品そのものの技法や美しさよりも作品に含まれるコンセプトが重要視されるアートのことを「コンセプチュアルアート」といいます。
シェリー・レヴィ-ンの代表作品を解説
続いて、シェリー・レヴィーンの名を世に知らしめるきっかけとなった『After Walker Evans』を含む彼女の4つの代表作品を紹介します。
After Walker Evans
After Walker Evans: 4(1981年制作)
出典元:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
1981年に制作された『After Walker Evans』は、全部で22枚のシリーズ作品です。1930年代の大恐慌時代(ウォール街にあるニューヨーク株式市場の大暴落をきっかけとして、4年程度続いた世界的な大恐慌)のアメリカ南部の様子を記録するために、ウォーカー・エヴァンスが撮影した写真がもとになっています。国の依頼を受けて撮影されたこれらの写真は貧しい人々の象徴と受け取れるでしょう。
シェリー・レヴィーンは、ウォーカー・エヴァンスの展覧会のカタログに掲載されていた写真を再撮影し、加工することなくそのまま作品として発表したため、大変な物議を醸しました。
現在、『After Walker Evans』はニューヨークのメトロポリタン美術館にコレクションされています。
Fountain(After Marcel Duchamp)
Fountain (After Marcel Duchamp)
出典元:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
シェリ―・レヴィーンが1991年に発表した『Fountain(After Marcel Duchamp)』は、マルセル・デュシャン(Marcel Duchamp)の代表作品である『Fountain』(1917年)をアプロプリエーションした作品です。
マルセル・デュシャンが芸術品として取り上げたのは何でもない「日用品」でしたが、シェリー・レヴィーンはこれを光沢のあるブロンズで鋳造することによって、『Fountain』を「芸術品」に引き戻しました。
Large Check
Large Check: 3, 5, 6 -10, and 12 (1987年制作)
出典元:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
『Large Check』は1987年に制作された連作です。ピエト・モンドリアンを思わせるような幾何学的な形状を、女性的とみなされることの多いパステルカラーで彩色している点がこのシリーズの特徴です。
シェリー・レヴィーンは英雄的な男性アーティストの代表作を意図的に女性化して見せることで、男性優位な美術の世界に立ち向かいました。『Large Check』は現在、ニューヨーク近代美術館に所蔵されています。
La Fortune (After Man Ray)
シェリー・レヴィーンが1990年に制作した『La Fortune (After Man Ray)』は、マン・レイが1938年に制作した油彩画『La Fortune』をもとにした立体作品です。シェリー・レヴィーンは絵画に描かれているボールの乗ったビリヤード台を、立体で再現しました。
装飾的なビリヤード台の脚や赤と白のボールの配置が、リアルに再現されているところが目を引きます。マン・レイの作品、シェリー・レヴィーンの作品ともにニューヨークのホイットニー美術館にコレクションされています。
*Whitney Museum of American Art / Collection / Works / Man Ray La Fortune 1938
シェリー・レヴィ-ンの作品「ブラック・ニューボーン」は国立国際美術館にて鑑賞可能
出典元:ウィキメディア・コモンズ (Wikimedia Commons)
『ブラック・ニューボーン(Black Newborn)』は、14cm×20.3cm×13.7cmの楕円形の立体作品です。シェリー・レヴィーンはこの黒いガラス製の立体作品を1994年に制作しました。20世紀を代表する彫刻家コンスタンティン・ブランクーシ(Constantin Brâncuşi)が1915年に制作した『The Newborn』(意味:新生児)をアプロプリエーションしています。
この『ブラック・ニューボーン』は国立国際美術館で鑑賞できます。大阪市にある国立国際美術館は世界的にも珍しい完全地下型の美術館で、地上部の竹の生命力や現代美術の発展などをイメージしたデザインも特徴的です。
レストランやミュージアムショップも充実しており多角的に楽しめる美術館なので、もし興味のある方は足を運んでみてください。 ちなみに『ブラック・ニューボーン』はニューヨーク近代美術館やホイットニー美術館にも所蔵されています。ホイットニー美術館では『ブラック・ニューボーン』のほか、半透明の『クリスタル・ニューボーン(Crystal Newborn)』もあわせて鑑賞できます。
*独立行政法人国立美術館 / 所蔵作品総合目録検索システム / 国立国際美術館 / ブラック・ニューボーン
シェリー・レヴィ-ンの作品の落札価格とその価値について
次に、近年オークションにおいて高額で落札されたシェリー・レヴィーンの作品を3点紹介します。
2015年:Caribou Skull|約9,500万円
2015年6月29日、フィリップスのオークションにおいてシェリー・レヴィーンの『カリブー・スカル(Caribou Skull)』が約9,500万円で落札されました。この作品はシェリー・レヴィーンが2006年に制作したブロンズの立体作品で、カリブー(北米に生息するトナカイの一種)の頭蓋骨をかたどっています。
2000年代以降、シェリー・レヴィーンはカリブーばかりでなく、さまざまな動物の頭蓋骨をかたどった作品を多く制作しています。
*Phillips / Sherrie Levine / Caribou Skull
2012年:Fountain (After Marcel Duchamp)|約7,700万円
2012年5月8日のクリスティーズのオークションにおいて、シェリー・レヴィーンの『Fountain (After Marcel Duchamp)』(SL 2/6のサイン入り)が約7,700万円で落札されました。代表作品として紹介したとおりマルセル・デュシャンの作品にちなんで制作されたこの作品は、37.9cm×63.2cm×37.9cmのブロンズの立体作品です。
*CHRISTIE'S / Sherrie Levine / Fountain (After Marcel Duchamp)
2016年:The Cradle|約5,000万円
2016年5月8日、シェリー・レヴィーンの『ゆりかご(The Cradle)』がフィリップスのオークションにおいて約5,000万円で落札されました。この作品はシェリー・レヴィーンがブロンズを用いて2009年に制作した立体作品で、48cm×100cm×60cmのサイズです。
ゴッホが1889年に制作した『子守唄、ゆりかごを揺らすオーギュスティーヌ・ルーラン夫人』という作品にちなんで制作されました。
*Phillips / Sherrie Levine / The Cradle
シェリー・レヴィ-ンに関する豆知識(トリビア)
最後に、シェリー・レヴィーンの創作活動をめぐる豆知識を2つ紹介します。
シェリー・レヴィ-ンは「The Pictures Generation」のうちの1人
1977年、美術評論家のダグラス・クリンプのキュレーションで「Pictures at Artists Space」という展覧会が開催されました。このうち、アーティスト・スペースというギャラリーで催された「Pictures(写真)」という展覧会では、アーティストが既にある作品をアプロプリエーションして新しい作品を生み出すプロセスが紹介され、大いに注目されました。
おおよそ30年後となる2009年、メトロポリタン美術館で「The Pictures Generation, 1974–1984」という大規模な展覧会が開催されました。この展覧会は、センセーションを巻き起こして伝説となった「Pictures at Artists Space」の参加者であるシェリー・レヴィーンやロバート・ロンゴのほか、リチャード・プリンスやシンディ・シャーマンなどの同世代に活躍した作家を特集するものでした。
1960年代に隆盛を誇ったミニマリズムを脱し、写真を制作に取り入れ始めたこれらのアーティストは、「The Pictures Generation」と呼ばれています。
シェリー・レヴィーンの作品は、著作権侵害とみなされて販売差し止めになったことがある
1981年にシェリー・レヴィーンがウォーカー・エヴァンスの写真を再撮影して作品として発表したとき、ウォーカー・エヴァンスの財産を管理している団体は著作権の侵害を訴えて作品の販売差し止めを要求しました。そこでシェリー・レヴィーンは『After Walker Evans』をウォーカー・エヴァンスの財産を管理する団体へ寄付することで問題を解決します。
1994年にウォーカー・エヴァンスの財産はメトロポリタン美術館に譲渡されました。そのため、『After Walker Evans』は現在メトロポリタン美術館の所蔵となっています。
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