高松次郎の影を扱った代表作や作品が観られる美術館について紹介

2022/10/22 ブログ

高松次郎の影を扱った代表作や作品が観られる美術館について紹介

高松次郎の略歴

 

高松次郎は、1936年に東京に生まれた現代画家です。思春期にピカソやアインシュタインに感銘を受け、学生時代以降は赤瀬川原平らとともにハプニングアートを手がける団体を結成しました。

その後、インスタレーションに近しい作品を数多く制作するほか、晩年には平面作品を手がけるようになりました。国内外の展覧会に出品し精力的な活動を行った、代表的な戦後の現代日本アーティストです。

 

 

1950年頃:中学2年生頃にピカソの作品に出会い、現代美術に興味を持つ

 

高松次郎は、1936年に東京で生まれた現代画家です。中学2年生頃にピカソに出会い、現代芸術に興味を持ちました。

また、彼はアインシュタインにも興味を持ちました。ピカソもアインシュタインも20世紀に世界で革命を起こした重要人物です。彼らの存在は、これまでの世界の価値観を揺るがしました。

多感な時期に圧倒的な世界観に感銘を受けた高松次郎ですが、「アートとは何か?」と考えさせられる彼の作風にピカソやアインシュタインの影響が表れています。

 

 

1959年:東京芸術大学美術学部絵画科油絵専攻を卒業し、デザイナーとして働きながら自らの作品を制作

 

高松次郎は高校卒業後、東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻に入学しました。在学中に雑誌「近代文学」にカットを描き始めた頃より「高松次郎」と名乗るようになります。(なお、本名は新八郎)

また、1958年には東京都美術館で開催された「第10回読売アンデパンダン展」に作品を出品するなど精力的に活動していました。

大学卒業後は一般企業に就職しインダストリアルデザイナーとして働きながら作品を制作するようにも含むほか、1962年には、高松次郎の大学時代の同級生である中西夏之らとともにパプニング「山手線事件」を決行しました。

 

 

1963年:高松次郎、赤瀬川原平、中西夏之の3人で芸術団体ハイレッド・センターを結成

 

高松次郎は、大学時代の同級生である中西夏之らとともにハプニングを決行した1962年の翌年、中西のほかに赤瀬川原平も交えて芸術団体ハイレッド・センターを結成しました。

団体の由来は3人の苗字を英語に羅列したものです。(「high=高」「red=赤」「center=中」)この団体は1962年の「山手線事件」も彼らの活動に含まれるほか、1964年には帝国ホテルにて「シェルタープラン」、銀座での「首都圏清掃整理促進運動」を決行しました。

ハイレッド・センターは社会の規範の限界まで表現されているものが多く、国民が一丸となった高度経済成長期のなかでは異端と言えるべき存在だったはずです。それゆえにメンバーのひとり・赤瀬川原平は、千円札を模した作品を制作し、裁判に発展するほどでした。

 

 

1965年:第9回シェル美術賞展に『影の圧搾』と『影の祭壇』を出品し1等賞を受賞

 

高松次郎は、1964年に彼の代表作である「影」シリーズの制作を始めました。このシリーズでは、画面に人間の影を描いたもので、実在物と虚像との関係を問いかけました。翌年の1965年には、第9回シェル美術賞展で「影」シリーズの「影の圧搾」、「影の祭壇」を出品し、1等賞を受賞しました。

その後、高松次郎は、立体作品である「遠近法」シリーズを制作するようになります。資格を通して感じられる遠近感の差異を表現しました。他には、異なる素材を組み合わせる「複合体」シリーズを制作し、これは今日のインスタレーションに近い作品となっています。

 

 

1972年:第8回東京国際版画ビエンナーレに『The Story』を出品し国際大賞を受賞

 

高松次郎は、1972年に開催された第8回東京国際版画ビエンナーレに「The Story」を出品しました。

一見記号と文字を使った書物のようなこの作品は、国際大賞を受賞し、彼の新たなシリーズ作品のひとつとなりました。その後も彼は第48回サンパウロ・ビエンナーレや、ドイツのカッセル市で開催されたドクメンタ6に出品を続けながら、国内外で活躍しました。

また、その頃より高松次郎は、平面作品を中心に手がけるようになりました。インスタレーションに近い作品を多く制作していた彼の、立体物に対する独特の感性が作品に反映されています。

 

 

1980年代~:「形」シリーズを代表する平面作品を制作

 

高松次郎は、1980年代より平面作品である「形」シリーズを制作するようになりました。

これは、特定のオブジェのモチーフをキャンバスに散りばめたもので、そのオブジェの色や大きさ、位置も異なります。

まるで鉱物の一部を拡大したかのような「形」シリーズは、晩年の彼の創作意欲を大いに駆り立て、1986年に亡くなる直前までこのシリーズを探求し続けました。

高松次郎の没後からしばらくして、2014年より東京国立近代美術館にて「高松次郎ミステリーズ」、そして翌年には国際国立美術館にて「高松次郎 制作の軌跡」が開催されました。そこでは彼の作品や文章から、世界観や活動の軸を探りました。

 

 

 

高松次郎の作品の世界観

 

高松次郎の作品は、一言で言うならばコンセプチュアルな世界観です。例えば「影」シリーズでは、徹底的にオブジェと虚像(影)との関係性を提示し、普段気にすることのない影を表現することで存在の意味を考えさせられます。

また、西洋美術の根幹である一点透視図法を三次元に落とし込んだ作品「遠近法の椅子とテーブル」では、二次元と三次元の差異を示し、常識を覆す見方を観る者に与えます。

このように高松次郎の作品は、鑑賞を通して体験することで、観る者を哲学的世界へと誘いこむ特徴があります。

また、コンセプチュアルなインスタレーションばかりでなく、高松次郎は晩年にかけて平面作品を数多く手がけました。そこでは地のキャンバスに幾何学的な模様が何の関係性もなく無造作に、さまざまな色合いや大きさで散りばめられています。

さまざまな事物を根本から疑う彼は「描く」ことに対しても疑問を抱いたのでしょう。

このように、高松次郎は感覚的なだけでなく、論理的にも優れたアーティストでした。インスタレーションから平面作品まで、才気煥発に活動を行っていました。

 

 

 

高松次郎の代表作品を解説

 

ここでは、高松次郎の代表作品である「THE STORY」、「カーテンを開けた女の影」、そして「遠近法の椅子とテーブル」と「形/原始」を紹介します。これらの作品では、彼の哲学的な世界観を垣間見ることができるでしょう。

 

 

THE STORY

 

版画作品である「THE STORY」は、1972年に開催された第8回東京国際版画ビエンナーレに出品されました。一見文字や記号が並んだ普通の文書のように思われる点がこの作品の面白いところだと言えるでしょう。

既存の事物を疑い、「問い」を発見することによって作品を制作する高松次郎の作風は、彼が多感な時期に大いに影響を受けたアインシュタインの存在が大きいでしょう。

 

 

カーテンを開けた女の影

 

「カーテンを開けた女の影」は、「影」シリーズのひとつで、1970年に開催された第2回長岡現代美術館賞展に出品されて優秀賞を受賞した作品です。

この作品は遠近法を駆使したもので、女の顔をしたオブジェが横に並びます。そして、それぞれが立体感を帯び、際のある影をおりなしています。

他にも高松次郎は、「影」シリーズにて影を用いることで存在を強調させる作品を制作しています。現実世界では実物に重きが置かれやすいものの、影に注目することによって別の側面から物を捉えるといった次元のずらしが巧みに取り入れられています。

 

 

遠近法の椅子とテーブル

 

「遠近法の椅子とテーブル」では、ルネサンスより西洋美術で取り入れられ始めた「一点透視図法」という技術を二次元から三次元に落とし込んだ作品です。「一点透視図法」は絵画の歴史に多大なる影響を与えた、西洋美術の根幹となる考え方で、明治になり日本画でも応用されるようになりました。

しかし、高松次郎はそのコンセプトを疑い、「遠近法の椅子とテーブル」では二次元で成り立つ見方を三次元に変換しました。実際に作品にしてみると「一点透視図法」で描かれたものは完全に三次元に再現できるものではないとわかり、常識を疑うことの重要性を教えられる作品となっています。

 

 

形/原始

 

「形/原始」は、高松次郎が1980年代以降より制作し始めた平面的な作品のひとつです。この時期の作品の特徴は、生命体のようなものを抽象化したオブジェがパターン化され、さまざまな大小、色味、位置など無秩序に描かれています。

「形/原始」では、ショッキングピンクを背景に、黒く幾何学的な形が巨大に描かれています。キャンバスが生命力で溢れ、畏怖さえ感じさせるこの作品は、彼が生涯追い求めた根源的なものを問うことへの欲望が全面に表現されているようです。

 

 

 

高松次郎の作品は東京国立近代美術館にて鑑賞可能

 

高松次郎の作品は、東京国立近代美術館に収蔵されています。代表的な作品は、「THE STORY」、「遠近法の椅子とテーブル」、「影」シリーズです。コレクション展は常に開催されているので、運がいいタイミングでこれらの作品を鑑賞できるかもしれません。

 

 

 

高松次郎の作品の落札価格と価値について

 

高松次郎の作品は、アートオークションにて好評です。というのも、海外では近年日本の現代美術が注目されているためです。2019年には「鍵の影」が1,200万円で、2022年には「Shadow」が670万円で落札されています。

コンセプチュアルなアートが評価されている近年では、今後さらに彼の作品は注目を集めるでしょう。

 

 

2019年:鍵の影 No.211|1,200万円

 

2019年には「鍵の影」が1,200万円で落札されました。この作品は高松次郎の有名作品群「影」シリーズのひとつです。「影」シリーズは彼の作品で最も評価されているもので、それゆえに落札価格も他の作品と比べて高くなっています。

 

 

2022年:Shadow No.1415|670万円

 

2022年に東京で開催されたNEW AUCTIONの「NEW002」セールにて、「Shadow No.1415」が670万円で落札されました。オークションでは、他にロッカクアヤコやシンディ・シャーマン、会田誠など錚々たるアーティストの作品が出品されました。

 

 

 

高松次郎の作品の買取相場

 

高松次郎の作品は、インスタレーション的なものから平面的なものまで幅広くあります。なかでも有名な「影」シリーズはセカンドマーケットでも高評価されており、数百万円単位で取引されています。

「影」以外の高松次郎の作品でも、原色を多く用いた絵画作品が多く出回っています。これらは「影」ほど高価で取引されていませんが、人気作品となっています。

近年海外では日本の現代美術への注目が高まっています。そのような機運があるために、高松次郎の評価は今後さらに高まるはずです。

 

 

 

高松次郎に関する豆知識(トリビア)

 

高松次郎の世界観は哲学的ですが、非常に親しみやすく、作品を通して体験すると同時に思考も豊かにさせてくれます。彼は感覚的に優れているだけでなく、論理的にも優れていて、そのバランス感覚が多くのファンを虜にするのでしょう。そして、彼がどのような考えで作品を制作したのか気になる方も多いはずです。

 

 

高松次郎の世界観を理解するには書籍「高松次郎 言葉ともの」がおすすめ

 

高松次郎の感覚的、そして論理的に優れた世界観を理解するには、書籍「高松次郎 言葉ともの」がおすすめです。

この本では、戦後現代美術の文脈で、高松次郎がどのように位置付けられているか、李禹煥といった現代アーティストや美術評論家が批評を寄せています。

彼らによる高松次郎の考察は、どのような時代背景や思想で彼が作品制作に取り掛かったのかを知ることができるでしょう。

また、高松次郎本人が遺した「不在への問い」では、彼の制作を知る手がかりになります。実在と虚像の関係性を追い求めた彼の核心に迫ることができるでしょう。

 

 

 

高松次郎の作品は強化買取中

 

高松次郎の作品は、わかりづらい現代アートのなかでも比較的親しみやすいといえます。

「影」シリーズや、既存の価値観に問いを立てた作品のように、彼の作品を鑑賞すると作品が提示する問いに対して考えを巡らせ、強く惹きつけられます。現代日本アートに興味を持った方にとって、彼の作品や世界観はシンプルで楽しみやすいといえるでしょう。

当店では現在高松次郎作品の買取を強化しています。アート作品は価値の判断が難しいため、スタッフが念入りに査定いたします。

 

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