上前智祐とはどんなアーティスト?代表作品『縫』や『縫立体』、波乱万丈な生涯について解説

2022/12/16 ブログ

上前智祐とはどんなアーティスト?代表作品『縫』や『縫立体』、波乱万丈な生涯について解説

上前智祐_作品

 

上前智祐(うえまえ ちゆう)は、戦後の日本でもっとも高い評価を得ているといっても過言ではない人気の前衛アーティスト集団「具体美術協会」のメンバーでありながら、芸術家として生計を立てていたわけではありません。上前智祐はクレーンマンとして生活の糧を得ながら自らの芸術を追い求めた努力の人といえるでしょう。

 

今回は上前智祐が辿った波乱万丈な生涯や、その中で生み出された作品の魅力、そして代表作品について解説します。

 

 

上前智祐の略歴

 

まずは、上前智祐の不屈の精神を育んだともいえる不遇の幼少期から、吉原治良(よしはらじろう)に師事し具体美術協会のメンバーとして活躍した時期を経て、海外からも知られる人気のアーティストとなるまでの彼の歩みを紹介します。  

 

 

1920年:経済的に苦しい家庭に生まれ、働きながら画家を目指す

 

1920(大正9)年、上前智祐は京都府中郡奥大野村(なかぐんおくおおのむら。現在の京丹後市)に生まれました。1歳の頃に父親の由蔵(よしぞう)が亡くなり、母の里ん(りん)も病気がちであったため、幼少期の上前智祐は貧困の中に生活を送ります。4歳の頃に耳の病で難聴となったことや、6回に及ぶ小学校の転校も上前智祐を苦しめました。

 

上前智祐は、小学校の卒業直前から舞鶴の洗い張り悉皆店(着物についての相談や調整を請け負う店)に奉公に出ました。縫うのが早かった上前智祐は周囲の人を驚かせたといわれています。その後はいくつかのクリーニング店で働きながら挿絵、肖像画などを描き、通信教育で南画(多くは山水などを描く中国発祥の絵画)を学びます。

 

1938(昭和13)年頃からは本格的に画家を志すようになり、1940年(昭和15)年以降には同時進行で数点の作品を描きながら膨大な数の作品を生み出しました。また、舞鶴海軍経理部や日本通運舞鶴支所に勤務しながらクレーンの運転免許を取得し、仕事をしながら数多くの展覧会に出品を続けます。

 

この頃、洋画家の木村荘八による『美術講座』を読み、自らも洋画家を目指すようになります。

 

 

1947年:第二紀会第一回展に出品し、初入選を果たす

 

上前智祐は、1947(昭和22)年に第二紀会(現在の二紀会)第一回展へ「舞鶴港の夕景」(同展出品目録では「風景」)を出品し、初入選を果たします。その後、洋画家の長谷眞次郎(はせしんじろう)の紹介で関西美術院の黒田重太郎(くろだじゅうたろう)から指導を受けるようになりました。また、この頃百貨店で開催されていた抽象画展から大きな衝撃を受け、自らも抽象画を手がけるようになります。

 

1949(昭和24)年に神戸の川崎重工業に転職した上前智祐は、クレーンマンとして働きながら職場の有志が集まる「朱舷会」という美術グループに所属しました。「朱舷会展」には抽象画を出品しています。  

 

 

1953年:吉原治良に師事し、翌年には具体美術協会の結成にも参加する

 

第24回二科展会場(1937年) 吉原治良(右)と長谷川三郎(左)

出典元:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

 

 

1953(昭和28)年3月、上前智祐は神戸で行われた「現代美術家クレパス画展」で吉原治良の抽象画を目にし、心を掴まれました。同年11月に芦屋にあった吉原治良宅を訪問すると、以降は頻繁に訪れて指示を仰ぐようになります。

 

翌年、吉原治良をリーダーとして集まった関西の若手作家、嶋本昭三らと共に「具体美術協会」を結成し、上前智祐は1972(昭和47)年の解散まで具体美術協会に在籍しました。  

 

 

1956年~:神戸市にアトリエと家を建てて活動の拠点とする

 

1956(昭和31)年に神戸市の垂水区舞子坂に100坪の山林を購入した上前智祐は、以降クレーンマンとしての仕事と作品制作に加えて、アトリエの建築にも取り組みます。上前智祐は自らツルハシをもって整地を行い、約7年もかけてようやく母屋とアトリエを建てました。

 

上前智祐はその後も精力的に作品の出品を続けます。1958(昭和33)年の「新しい絵画世界展-アンフォルメルと具体」では吉原治良やフランスの美術批評家ミシェル・タピエから高く評価されました。

 

1975(昭和50)年、上前智祐は現代美術家の吉村益信が呼びかけた「アーティスト・ユニオン(AU)」に嶋本昭三らと共に加入します。そして1980(昭和55)年、還暦を迎えた上前智祐はクレーンマンの仕事を引退し、創作活動により力を注ぐようになりました。

 

また、50代半ばごろから代表作の『縫』、60代半ばからは『縫立体』の制作を開始します。  

 

 

1999年以降:さまざまな美術館で個展を開催し、90歳を過ぎてもなお精力的に創作活動に取り組む

 

上前智祐の晩年の作品は、『縫』『縫立体』の他にも油彩画や版画、立体作品などがあり多岐にわたります。1999(平成11)年には大阪府立現代美術センターで「集合と綢密のコスモロジー・上前智祐展」、2012(平成24)年にはBBプラザ美術館で回顧展「卒寿を超えて上前智祐の自画道」を開くなど、展覧会も多く開催されました。

 

2003(平成15)年に電動のこぎりで左手の指を切断する事故に見舞われますが、その後も情熱を失うことなく晩年に至っても精力的に作品制作に打ち込んでいます。そして2018(平成30)年、老衰によって97歳でこの世を去りました。

 

*独立行政法人 国立文化財機構 東京文化財研究所 / 上前智祐

 

 

上前智祐の作品の世界観

 

 

上前智祐は1940(昭和15)年頃から本格的に創作活動を開始しました。初めは具象絵画を手がけていましたが、1953(昭和28)年に吉原治郎に師事する少し前から抽象画の制作を始め、以降は抽象を追い求めるスタイルを貫きました。

 

具体美術協会では、マッチの軸やおがくずで画面を盛り上げた作品や立体作品などの制作に取り組み、1975(昭和50)年以降になると代表作の『縫』や『縫立体』の制作に至ります。その後は多様な作品を手がけ、1980(昭和55)年にクレーンマンの仕事を引退して以降は版画作品にも取り組みました。

 

上前智祐は派手なアクション・ペインティングが盛んに行われた具体美術協会に属しながらも、手作業の積み重ねによる反復、油絵具を重ねた点描、ミクストメディアの作品に魅せられて、それらの制作を丁寧に行いました。

 

上前智祐の繊細な作品は、具体美術協会の中ではやや異質であったかもしれません。しかし、吉原治良の「誰もやったことのないことをやれ」というコンセプトを胸に、意欲的に創作活動に取り組んだともいえます。

 

 

上前智祐の代表作品を解説

 

上前智祐の作品の中でももっとも広く知られる『縫』と『縫立体』について紹介します。上前智祐は、生前に受けたインタビューでこれらの作品を「力説したいのは、やはりこの縫の作品」と説明しています。彼の画業の中でも大きな意味を持つ作品といえるでしょう。  

 

 

 

『縫』は糸を使って手縫いで布を覆いつくした作品です。上前智祐はこの作品を50代半ばから70歳頃まで制作しました。なみ縫いで地の布が見えなくなるほどに縫い詰められた作品は、上前智祐が30代で熱中した油彩の点描画にどことなく通じるものがあります。また、『縫』には舞鶴の洗い張り悉皆店で奉公していたときの経験が生かされています。

 

初めは色の使い分けや縫いの密度がランダムでしたが、次第に緻密になっていき、60代半ば頃からは縫い目が格子状に配列されるようになりました。ミシンを使ったこともありましたが出来栄えに納得がいかず、手縫いでの制作に戻ったといいます。  

 

 

縫立体

 

『縫立体』は、なかなか針が通らないほどに布を縫い固めて板状にし、それをさらにつなぎ合わせて立体にした作品です。上前智祐はこの作品の制作を60代半ばから開始しました。

 

自立する作品のほかレリーフ状の作品もあります。平面であった『縫』が立体に進化した『縫立体』は、より上前智祐らしさが追求された作品ともいえるでしょう。

 

 

上前智祐の作品が鑑賞できる美術館・施設3選

 

上前智祐の多種多様な作品が観られる美術館を、今回は3か所ピックアップして紹介します。

 

 

大阪府立江之子島文化芸術創造センター

 

大阪府立江之子島文化芸術創造センター(通称:enoco)が所蔵する20世紀美術コレクションの中には、上前智祐の油彩画、立体作品、版画などが幅広く含まれています。大阪府立江之子島文化芸術創造センターでは20世紀美術コレクションを展示する企画展を年に2回開催しているため、興味のある方は詳細を確認の上、ぜひ足を運んでみてください。代表作の『縫』も数点所蔵しています。

 

住所 〒550-0006 大阪市西区江之子島2丁目1-34
電話番号 06-6441-8050
営業時間

10:00~21:00

※ただし部屋により時間が異なる場合があるため要確認

※月曜・年末年始休館

料金 企画展は無料の場合が多い(要確認)
公式HP https://www.enokojima-art.jp/

 

 

練馬区立美術館

 

出典元:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

 

 

練馬区立美術館では、2005(平成17)年から2008(平成20)年に制作された上前智祐の版画作品を数多く所蔵しています。晩年において上前智祐の作品がどのように進化したのかが鑑賞できる貴重な作品といえるでしょう。練馬区立美術館では、上前智祐のほかに具体美術協会に所属した白髪一雄の作品も所蔵しています。

 

住所 〒176-0021 東京都練馬区貫井1-36-16
電話番号 03-3577-1821
営業時間

10:00~18:00(入館は17:30まで)

※月曜日(祝休日の場合はその翌平日)、年末年始、

 展示替え準備期間は休館

料金 展覧会により異なる
公式HP https://www.neribun.or.jp/museum.html

 

 

国立国際美術館

 

出典元:ウィキメディア・コモンズ (Wikimedia Commons)

 

 

大阪市にある国立国際美術館では、上前智祐が具体美術協会に所属していた頃の油彩画2点(1958年と1960年に制作)が鑑賞可能です。国立国際美術館は大阪中之島美術館とともに、2022年10月22日より開催される展覧会『すべて未知の世界へ ― GUTAI 分化と統合』の会場にもなっています。この展覧会にも上前智祐の作品が出品されます。

 

住所 〒530-0005 大阪府大阪市北区中之島4-2-55
電話番号 06-6447-4680(代)
営業時間

【通  常】10:00~17:00(入場は16:30まで)

【夜間開館】10:00~20:00(入場は19:30まで)

※月曜日(祝休日の場合はその翌平日)、年末年始、  

 展示替え準備期間は休館

料金 展覧会により異なる
公式HP https://www.nmao.go.jp/

 

 

上前智祐の作品の落札価格とその価値について

 

上前智祐は具体美術協会のメンバーとして海外からも知名度が高いため、オークションにおいては高額で取引されています。クリスティーズのオークションで高値で落札された作品3点を紹介します。

 

 

2015年:Untitled(1971年制作)|約2,480万円

 

2015(平成27)年5月30日、クリスティーズのオークションにおいて、上前智祐の作品『Untitled』が約2,480万円で落札されました。この作品は1971(昭和46)年に制作された148cm×115cmの油彩画です。吉原治良の死によって具体美術協会が解散する1年前に制作されました。

 

*CHRISTIE'S / Chiyu Uemae / Untitled

 

 

2015年:Untitled(1996年制作)|約1,360万円

 

同じく2015年のクリスティーズのオークションにおいて、上前智祐の『Untitled』が約1,360万円で落札されました。この作品は1996(平成8)年に制作された170cm×93cmの大型作品です。上前智祐は1990年代に多数の四角形をモチーフとした作品を多く制作しています。この作品もそのうちの1つでした。

 

*CHRISTIE'S / Chiyu Uemae / Untitled

 

 

2022年:Untitled(2010年制作)|約82万5,000円

 

2022(令和4)年4月22日、クリスティーズのオークションにおいて上前智祐の小品『Untitled』が約82万5,000円で落札されました。この作品は2010(平成22)年に制作された46cm×38.2cmの作品です。おがくずを使ってキャンバスを盛り上げているため、3.4cmの厚みがあります。

 

*CHRISTIE'S / Chiyu Uemae / Untitled

 

 

上前智祐の作品の買取相場

 

上前智祐は白髪一雄や吉原治良らとともに具体美術協会に所属していました。具体美術協会は国内外で人気が高く、上前智祐の作品もフランスのポンピドゥーセンターなどの著名な美術館にコレクションされています。

 

上前智祐の作品の買取相場は数十万円台になることが多いでしょう。ただし、画集掲載作品など一部の作品は100万円を超えることもあります。保存状態等も含めて総合的に判断いたしますので、お気軽にご相談ください。

 

 

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